京都大学 大学院医学研究科 社会健康医学系専攻

社会疫学分野 竹村優太(医学科6年生)、佐藤豪竜助教、近藤尚己教授、井上浩輔准教授(白眉センター)らが、小児期逆境的経験と喘息の既往の交互作用とその後のうつ症状との関連についてBMJ Mental Health誌に発表しました。

一般 2024年02月14日

小児期逆境的経験(17歳までの身体的・性的・精神的虐待、家庭内暴力、精神疾患や自殺企図を有する家族との同居など)がメンタルヘルスに悪影響を及ぼすという研究はこれまで数多く報告されています。また、喘息などの慢性疾患がメンタルヘルスに悪影響を及ぼすことも知られています。一方で、こうした小児期逆境的経験と喘息のような慢性疾患が併存した場合の、うつ症状との関連についてはこれまで報告がありませんでした。そこで、竹村優太(医学科6年生)、佐藤豪竜(社会疫学分野助教)、近藤尚己(同分野教授)、井上浩輔(同分野・白眉センター准教授)、および磯部昌憲(京都大学医学部附属病院精神科)、Richard Liang(Stanford大学)らの研究グループは、Marginal Structural Modelという統計手法を用いて、時間依存性交絡因子を考慮した解析を行い、小児期逆境的経験と喘息の交互作用とその後のうつ症状との関連について検証しました。

本研究では、アメリカのCDCが公開しているBRFSSというデータを用いて、18歳以上のアメリカ在住者21,544人を対象としました。小児期逆境的経験を少なくとも1つ経験している人と、そうでない人、および喘息の既往のある人とない人の4群に分け、対象者の背景因子などを調節し、解析しました。また、小児期逆境的経験と喘息の交互作用は、Relative Excess Risk due to Interaction(相対的過剰リスク)という加法的スケールと乗法的スケールの2つで評価しました。その後のうつ症状との関連について、小児期逆境的経験と喘息はそれぞれ、それらを有さない群と比較して、オッズ比 2.85 (95%信頼区間:2.30-3.55)、2.24 (1.50-3.27) でした。また、小児期逆境的経験と喘息の両方を有する場合の交互作用は、 乗法的スケールのオッズ比で0.89 (0.59-1.44)、 RERI=+1.63 (0.54-2.71)でした。

加法的スケールにおいて小児期逆境的経験と喘息の交互作用が認められた本研究結果は、小児期逆境的経験そのものを予防することに加えて、そうした経験を有する人々に対する喘息などの合併症に対する予防・治療介入も精神的健康を保つ上で重要である可能性を示唆します。具体的な介入手段について本トピックにおける更なる研究が求められます。

本研究結果は2024年2月2日に、国際学術誌BMJ Mental Healthにオンライン掲載されました。

Takemura Y, Sato K, Liang R, Isobe M, Kondo N, Inoue K. Estimating the joint association of adverse childhood experiences and asthma with subsequent depressive symptoms: a marginal structural modelling approach. BMJ Ment Health. 2024;27(1):e300859. Published 2024 Feb 2. doi:10.1136/bmjment-2023-300859

Corresponding to: inoue.kosuke.2j@kyoto-u.ac.jp

リンク:

https://mentalhealth.bmj.com/content/27/1/e300859