社会疫学分野 石村奈々博士課程学生、井上浩輔准教授(白眉センター)、近藤尚己教授らが、所得と腎機能低下の関連についてJAMA Health Forum誌に発表しました。
これまでの研究により、慢性腎臓病(CKD)の発症や進行には社会経済要因(所得、教育歴、居住地など)との関連がみられ、社会経済的地位の低い人ほどリスクが高いことが示されていました。しかし公的な皆保険制度のない米国からの報告が多く、皆保険制度のある国、特に日本での状況は分かっていませんでした。社会疫学分野の石村奈々 博士課程学生、井上浩輔 准教授、近藤尚己 教授と上智大学の中村さやか 教授、曁南大学の丸山士行 教授らの研究グループは、全国健康保険協会(協会けんぽ)のデータ(約560万人分)を用いて、個人の所得と腎機能低下の関連を検討しました。
全国健康保険協会に加入する被保険者を対象とし、月額収入(標準報酬月額)を基に10分位に分け、所得により腎機能低下リスクの違いがあるかを検討しました。急なCKD進行(年間eGFR低下量>5ml/min/1.73m2)と腎代替療法(透析・腎移植)の開始について評価し、その結果、所得が最も低いグループ(平均月収136,451円)は最も高いグループ(平均月収825,236円)と比較して、急なCKD進行のリスクが1.7倍、腎代替療法開始のリスクが1.65倍高いことが示されました。
本研究は、健康保険や毎年の健康診断など手厚い医療制度の敷かれた日本においても、所得による腎機能低下リスクの差が男女ともに存在することを明らかにしました。より公平かつ効果的なケアに向けて、医療費の補助を中心とする現在の皆保険制度下のサービスに加えて、腎機能を保つために必要な健やかな生活を維持できる生活環境や支援体制をさらに整備していく必要性を示唆します。また、関連するメカニズムの解明に向けて、生活習慣や治療の質の違い、社会生活上のストレスや環境の影響などを明らかにすることが求められます。
本研究成果は、国際学術誌「JAMA Health Forum」(オンライン)に、3月2日(土)(日本時間)に公開されました。
Ishimura N, Inoue K, Maruyama S, Nakamura S, Kondo N. Income Level and Impaired Kidney Function Among Working Adults in Japan. JAMA Health Forum. 2024;5(3):e235445. doi:10.1001/jamahealthforum.2023.5445
Corresponding to: inoue.kosuke.2j@kyoto-u.
リンク:
・https://jamanetwork.com/journals/jama-health-forum/fullarticle/2815746
・https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2024-03-04-1