京都大学 大学院医学研究科 社会健康医学系専攻

活動報告:京大国際レクチャー:ヘルシー・エイジングに関する測定尺度「ATHLOS スケール」の開発

一般 2023年08月03日

活動報告:京大国際レクチャー:ヘルシー・エイジングに関する測定尺度「ATHLOS スケール」の開発

2023年7月28日夕方、京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻(京大SPH)で「ヘルシー・エイジングに関する測定尺度「ATHLOS スケール」の開発」をテーマに国際レクチャーが開催されました。ハイブリッド形式で開催されたこの国際レクチャーに、京大SPHの学生・教員など約30名がオンサイトまたはZOOMで参加しました。バルセロナ大学のAlbert Sanchez-Niubo教授が、ゲストスピーカーとして招待されました。この国際レクチャーの目的は、ヘルシー・エイジングに関する測定尺度の開発手順と詳細の紹介でした。

 最初に、Sanchez-Niubo教授は、ヘルシー・エイジングに関する学術研究の歴史を簡単に紹介し、多くの研究者や団体がヘルシー・エイジングに関連するさまざまな概念を測定するための尺度の開発という課題に取り組んできた歴史を紹介しました。WHO のヘルシー・エイジングの定義によれば、内在的能力(intrinsic capacity)や身体的および社会的環境などの機能ベースのアプローチに焦点が当てられています。ヘルシー・エイジングを測定する取り組みにおいて重要な側面の 1 つは、普遍的なツールとして、あらゆる集団で使用できる測定値を普遍的に検証することでした。このような尺度の開発の必要性に応えるべく、欧州連合の Horizon 2020 からの資金を受けて、ATHLOS プロジェクトが開始されました。この取り組みは 2015 年と 2020 年に正式に実施されました。課題は、ヘルシー・エイジングのハーモナイズされた尺度を作成することでした。この取り組みには、38 か国からの 16 件の研究が含まれ、41 項目がハーモナイゼーションのために選択されました。

この尺度を構築するために、2 つのパラメーターのロジスティック項目応答理論 (Item Response Theory: IRT) モデルが使用されました。ハーモナイゼーションが進むにつれて、一部の項目については、適していないのではないかという懸念もありました。IRT は、二分変数をヘルシー・エイジングのスコアである連続潜在変数(continuous latent variable)にリンクする潜在変数モデルの一種です。潜在的特性スコア(latent trait score)の一次元性を説明するために、確認的因子分析(Confirmatory Factor Analysis)が行われました。 この尺度は、平均 0、標準偏差 (SE) 1 の標準として分布され、平均 50、SE 10 に再スケール化され、スコアが高いほど健康的にエイジングすることが示されています。IRT はまた、各項目について、その項目がどの程度差別されているか、および自己申告の難しさを示す、個人とは独立した 2 つのパラメーターを推定します。たとえば、高齢者の記憶力(memory)や停止(身体機能)(stopping)の困難などの一部の変数は、摂食困難(eating)などの答えやすい変数よりも、自己申告が困難です。次に、研究全体にわたる特異項目機能 (DIF) を検出するアプローチが実施されました。DIF がない場合、つまりすべての研究で動作が類似している場合、モデル 0 が真になります。どのアイテムを使用するのが適切かが決定したら、Stocking-Lord 同等化アプローチ(Stocking-Lord equating approach)を使用して、非 DIF アイテムをアンカーアイテムとして使用しました。乗法項と加法項(multiplicative and additive terms)を導出した後、これら 2 つを加算しました。最後に、IRT パラメーターの推定値と標準誤差の観点から、パラメーターの推定値を表にまとめました。

結果として、ATHLOS スケールのプロパティは次のとおりです。優れた適合性、優れた信頼性、および主スケールと各研究固有の項目サブセット間の高いクラス間相関係数を備えた成功したカバレッジを有します。すべての研究で DIF のある項目が 8 未満であり、DIF のない研究が 3 つありました。

この研究の限界は、スケールが項目の選択とハーモニゼーションのプロセスの品質に依存することです。この様な限界にもかかわらず、この方法論的アプローチはうまく機能し、優れた特性を備えていました。今後の方向性としては、新たな研究として、さらなるデータのハーモニゼーションを行い、データベースを更新していく必要があります。また、新たな適切なコホート研究を追加することも望まれています。

講演の最後に、参加者はATHLOSスケールの具体的な特徴や、異なる研究間で変数を比較する可能性について質問をしました。また他の学生は、尺度の開発になぜ因子分析や CFA ではなく IRT を選択したのかや、機能(functionality)を内在的能力(intrinsic capacity)と環境因子(environmental factors)に分解する必要があるのかどうかについて質問しました。

講演の最後に、社会疫学分野の近藤教授は、スケールを統一し、一般的なルールを作成するために多大な努力が払われていることに対して、この研究を高く評価しました。この方法論は、世界中のばらつき(variability)、およびさまざまな研究にわたるデータの均一性と異質性を理解するのに役立つ研究であることについて、理解が深まりました。