活動報告:京大国際レクチャー:デジタルパブリックヘルス
2023年6月29日午後、京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻(京大SPH)で「デジタルパブリックヘルス」をテーマに国際レクチャーが開催されました。ハイブリッド形式で開催されたこの国際レクチャーに、京大SPHの学生・教員など約30名がオンサイトまたはZOOMで参加しました。ボルドー大学のRodolphe Thiébaut教授が、ゲストスピーカーとして招待されました。この国際レクチャーの目的は、ボルドー大学で実施されているデジタルパブリックヘルス関連の大学院教育および研究活動の紹介でした。
最初に、ボルドー大学の概要及び分野の紹介をしていただきました。ボルドー大学は首都パリから電車で2時間程度のところに位置しており、500名以上の研究者が在籍するフランス最大の公衆衛生大学院です。15の分野で構成されており、それぞれに関して簡単な研究内容紹介がありました。Thiébaut教授の研究室であるSISTM(Statistics in Systems Biology and Translational Medicine)の紹介では、代表的な研究としてエボラワクチンがどのような機序で効果を示すのか、効果はどの程度持続するのか、個人における反応をどのように予測するのか、最適な注射スケジュールはどのようなものかをデジタルデータを用いることで明らかにする研究をご紹介いただきました。
次に、最近ボルドー大学の研究者が発表したCOVID-19関連の2本の研究論文についてお話しいただきました。1つ目の論文名は「Estimating the population effectiveness of inventions against COVID-19 in France」で、医療系以外の政府の介入政策(Non Pharmaceutical Interventions: NPIs)がフランスのSARS-CoV-2ウイルス伝播をどの程度抑制したかを、オープンデータを用いて解析しています。その結果、フランス政府で行われたNPIsには十分なSARS-CoV-2ウイルス伝播抑制効果があったとのことです。こちらの論文は後ほど紹介のあるコチュテル(Cotutelle)プログラムの学生が執筆しました。2つ目の論文名は「Forecasting SARS-CoV-2 hospitalizations using EHR : from linear regression to reservoir computing」で、医療情報ネットワーク(Electronic Health Record: EHR)の大規模データを用いてSARS-CoV-2による入院患者数の予測を行った研究です。その結果、外出禁止令は入院患者数の抑制に効果的でしたが、天気の影響は20%と小さいことがわかりました。これから期待されている次のステップとしてReservoir computingがあるとの説明もありました。
後半は、ボルドー大学のデジタルパブリックヘルスプログラムについてご説明いただきました。その特徴は4つあり、1つ目は疫学、統計学、コンピューターサイエンスの3つの主分野から構成されていること、2つ目はデータ中心のプログラムが組まれていること、3つ目は国際的な教育のためすべての授業が英語で行われていること、4つ目は、インターンシップに力を入れており、カナダのMcGill大学との共同プログラムがあることです。4つ目に関して、修士課程と博士課程それぞれに関してご説明いただきました。まず、修士課程について、ボルドー大学では基本1年間で修士課程を修了できます。共同プログラムでは、最初の1年をMcGill大学で修学した後、1年間ボルドー大学で過ごし、計2年を修学することで、ダブルディグリーとして、両大学の修士を取得することができます。また、博士課程では、コチュテル(Cotutelle)ダブルディグリープログラムとして、ボルドー大学とカナダのMcGill大学のそれぞれで学生が修学します。このプログラムの魅力は学生個人に必要なものを学ぶため、最適な環境に身を置くことができることだそうです。最後に、学生が複数の研究室に所属することで、共同研究が進みより良いものを生み出すことが可能となるので、ボルドー大学と京都大学も連携を深めていくことが期待されるとメッセージをいただきました。
講演終了後、学生からは研究の意義や、ボルドー大学の授業内容などについて様々な質問がありました。最後には予防医療学分野教授の石見先生から、今後ボルドー大学との連携を深め、交流を実現するためには、ボルドー大学で勉強を希望する学生が意見を発信することが重要だとコメントをいただきました。