国内外の現況

遺伝カウンセラー養成に関わる海外の状況

非医師の遺伝カウンセラーに相当する職種の諸外国の状況について、先進国の北米、英国、ドイツを例に述べる。なお、諸外国のうちでは米国が最も非医師の遺伝カウンセラー養成に力を入れている。いずれの国も現在の遺伝医療の現場では、医師だけで対応できないのが現況であり、遺伝医学やコミュニケーション学等の実習を含む教育を受けた非医師の遺伝カウンセリング有資格者の存在が重要視されつつある。

北米の状況

1970年より、公衆衛生大学院修士課程等での「遺伝カウンセラー」教育が行われており、ABGC(American Board of Genetic Counseling )の認定を受けている養成課程は米国に37校、カナダに4校ある。養成課程を修了し、認定試験に合格するとCertified Genetic Counselor(CGC)の資格が与えられる。1982年以降これまでに認定を受けたCGCは4000名以上となっている。修了後の進路は、単に医療機関に就職して遺伝カウンセリング業務に就くだけでなく、研究機関・検査会社に就職して被検者への説明などの業務にも携わっている。どの分野を重視したカウンセラーを養成するかは大学院ごとに違っており、心理学的要素に力点を置く大学院、分子遺伝学研究に力点を置く大学院と、多様である。

英国の状況

Association of Genetic Nurse and Counsellor(遺伝看護師・カウンセラー協会:AGNC)が非医師の遺伝カウンセラー認定資格を授与している。資格申請者は、該当する120時間以上の教育を受けたか、該当する修士課程を修了した者でなければならない。遺伝カウンセラー養成修士コースは2校しかない。これは、すでに現場で看護師や助産師として働いている者が、その地方ごとの臨床遺伝サービスを統括している機関が提供している教育を受け、資格を取得することが多いためである。したがって、遺伝看護師が大多数を占め、医療機関での業務を主としている。

ドイツの状況

医師のカウンセラーが多い。これに対し、生物学でDIPLOM(ドイツの大学制度での大学は、卒業資格が修士にあたる)を取得後、実習研修を含む特別なプログラムを修了して生物学者としてカウンセラーになる。主に大学病院系の産婦人科や子供病院などの専門科として併設されている「Genetische Beratung」と呼ばれている遺伝相談科で仕事を行っている。

遺伝カウンセラー養成に関わる国内の状況

日本では、日本人類遺伝学会、日本遺伝カウンセリング学会が合同で認定した「臨床遺伝専門医」の制度が平成14年より始まっており現在1853名が認定されている。これまで遺伝カウンセリングは医師によってのみ行われていることが多く、しかも通常診療科との兼務のため、遺伝カウンセリングを必要としている人に対し十分な時間をかけて対応できない。あるいは、遺伝カウンセリングを必要とする人が、遺伝カウンセリングを行っている医療機関の情報を入手できないといった状況が生まれていた。

厚生労働省では「遺伝子医療の基盤整備に関する研究」分担研究「認定遺伝カウンセラーの養成と資格認定に関する研究」班は、日本遺伝カウンセリング学会・日本人類遺伝学会とともに、医療専門職として非医師の「遺伝カウンセラー」を導入するために、人材育成の到達目標を検討し、平成17年度より、認定遺伝カウンセラー制度委員会により認定遺伝カウンセラー認定試験が開始された。平成15年より、信州大学医学研究科と北里大学医療系研究科の修士課程に養成課程が開始されている。

現在では認定された遺伝カウンセラー養成専門課程は29校、現在認定資格をもつ認定遺伝カウンセラーは389人となっている。今後も毎年30-40人が認定されると見込まれている。

京都大学と近畿大学では平成18年度より学生募集を開始しているが、京都大学では本邦でもいち早く平成8年より医学部附属病院に遺伝子診療部を設置し、遺伝カウンセリングの患者数も最多のレベルであり、代表者が中心となって活動を支えてきた。実習の場として、本邦で最も充実していると考える。
このような状況から、本コースは、本邦における遺伝カウンセラー養成の中心的な役割を果たしている。

これまで主な遺伝カウンセリングの対象であった単一遺伝性疾患のみならず、将来的に需要が予想される、より幅広い領域を対象とする。多因子疾患感受性遺伝子および薬剤代謝関連遺伝子の解析によるテーラーメイド医療の現実化に伴って爆発的に需要が見込まれる領域についても対応が可能な遺伝カウンセラーを養成する。