活動報告: 京都大学SPH国際レクチャー 死後検査による突然死の再定義
活動報告: 京都大学SPH国際レクチャー
死後検査による突然死の再定義
2025年12月16日、京都大学大学院医学研究科・社会健康医学系専攻(KUSPH)にて、「死後検査による突然死の再定義」に関する国際レクチャーが開催されました。
現地とZoomを用いたハイブリッド形式で、約15名の学生および教員が参加しました。本講演では、カリフォルニア大学サンフランシスコ校循環器内科心臓電気生理学分野教授であるZian H. Tseng教授をお招きし、UCSF POST SCD(Postmortem Systematic Investigation of Sudden Cardiac Death)研究の最新の知見をご紹介いただくことを目的にご講演いただきました。
心臓突然死は公衆衛生上も重要な問題ですが、その原因疾患の疫学は死亡診断書の記載などに基づいており、既存の研究結果、疫学的調査結果には、バイアスがある可能性が指摘されてきました。特に「突然心臓死の約80%は虚血性心疾患に起因する」という通説は、剖検率の低さによる選択バイアスの影響を強く受けていると考えられています。
Tseng先生が主導するUCSF POST SCD研究は、地域全体を対象とした系統的な剖検ベースの前向き研究として設計され、2011年以降、サンフランシスコで発生した病院外および救急外来での突然死を網羅的に収集しました。本研究は、WHO定義による突然心臓死に対して約97%という極めて高い剖検率を達成し、従来研究で問題とされてきた選択バイアスを最小化しています。
その結果、剖検で確認された突然死のうち、致死性不整脈による心原性突然死(Sudden Arrhythmic Death)は約56%にとどまり、約40%は薬物中毒、神経学的疾患、出血、肺塞栓などの非心原性突然死であることが明らかとなりました。この結果は、突然死の多くがAEDやICDによる措置では救命できないことを意味しています。一方、救命された症例の病因は約98%が心原性であり、死亡に至った突然死症例(Sudden Cardiac Death)とは原因構成が大きく異なっていました。この結果は、死亡した症例と究明された症例ではその病因の疫学が大きく異なっていることを示しており、既存の研究結果を突然心臓死予防に直接外挿することの問題を明らかにしました
POST SCD研究は、突然死の定義と病因構造を再定義し、不整脈中心の従来の心停止研究や心停止予防の枠組みを超えた包括的な視点の必要性を示しました。特に、神経学的突然死や薬物過量摂取といった非心原性の要因を含めた包括的介入が、今後の突然死予防において重要であると考えられます。
また、Tseng先生は現在、POST SCD studyにおいて収集された組織検体および生体試料を用い、トランスクリプトーム解析やプロテオーム解析などの分子生物学的アプローチを通じて、心停止の予防につながる研究を精力的に進めています。
このような包括的かつ分子レベルに踏み込んだアプローチは世界的にも極めて稀です。今後、我が国においても、全国ウツタインレジストリや大阪CRITICAL studyといった日本が誇る心停止レジストリに、POST SCD studyの視点および方法論を応用していくことが重要です。本講演は、今後の心停止・蘇生研究の発展に多くの示唆を与える極めて意義深い内容でありました。
