活動報告:スウェーデン全国レジストリベース研究から得られたライフコース全体における認知症リスクとその結果について―ライフコースの特徴と認知症リスクおよび結果の関連: 思春期から高齢期まで
2025年10月7日午後、京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻(KUSPH)にて、「スウェーデン全国レジストリベース研究から得られたライフコース全体における認知症リスクとその結果について – ライフコースの特徴と認知症リスクおよび結果の関連: 思春期から高齢期まで」のタイトルで国際レクチャーが開催されました。現地とZoomを用いたハイブリッド形式で、約20名の学生および教員が参加しました。本講演では、スウェーデン・オレブロ大学の日吉綾子准教授をお招きし、スウェーデンにおける認知症リスクとその結果をライフコースの視点からご紹介いただくことを目的にご講演いただきました。
講演では、まずご自身のご経歴をご紹介いただいた後、認知症リスクとその結果に関する研究の動機と背景を概説していただきました。先生の研究チームが構築したDAREデータベースは、1968年から2023年までスウェーデンに居住したすべての人々を対象としており、30以上の全国規模及び地域・疾患別レジストリを連携させたもので、これを用いて認知症リスクを再評価しています。続いて、このデータベースを用いた研究を通じて特定された二つの認知症リスク要因をご紹介いただきました。
一つ目は聴覚障害です。縦断的コホート研究に基づき、研究チームは、晩期思春期(典型的には18歳頃)のスウェーデン人男性の聴覚障害が、72歳までに認知症を発症するリスクの増加と関連している可能性を示しました。ただし、その影響の大きさはそれほど大きくありませんでした(集団寄与危険割合は約3%)。
二つ目の要因は、移民の有無による社会福祉ケアサービスの利用格差です。スウェーデンの社会福祉サービスが税金で賄われている点に着目し、移民はスウェーデン生まれの国民と比較して、認知症診断から在宅社会福祉サービスの利用開始までの期間が長くなり、在宅サービスの利用不足のために入院する確率が高くなるのではないかという仮説を立てました。現在得られている結果は仮説を支持しており、現在は出身国別の層別化分析や各介護段階の推定期間の算出など、さらなる詳細な分析が進めているそうです。
最後に、日吉先生は、研究チームの目標は認知症の予防と進行遅延に貢献することであると結論付けました。また、誰もが最終的には死を迎え、その前に多くが社会福祉サービスを必要とするため、社会福祉サービスへの資源配分を導き、ケアの公平性を促進するための有用な情報を提供することを目指していると述べました。
講演後には、スウェーデンのデータ状況やDAREデータについて、データベースを用いた実施可能な研究テーマ、他のデータベースとの連携の可能性とデータベースの限界、およびスウェーデンの社会福祉システムと在宅サービスの詳細について質疑応答が行われました。
