健康増進・行動学分野 井上浩輔教授とUCLAの研究チームが、標的試験エミュレーションを用いてGLP-1受容体作動薬と認知症の関連を明らかにした研究が、Annals of Internal Medicine誌に掲載されました
これまでの研究により、GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)は血糖値を下げ、体重を減少させ、心血管疾患の発症を予防することが示されてきました。一方で、近年いくつかの観察研究から「GLP-1RAが認知症の発症を減らす可能性がある」との報告も出ていますが、それらの研究には解析方法上の限界が多く、因果関係が十分に明らかではありませんでした。
そこで本研究グループは、米国の公的医療保険データ(Medicare)を用いて、実際の臨床試験を模した解析(標的試験エミュレーション)を行い、GLP-1RAとDPP-4阻害薬(DPP4i)という2つの糖尿病治療薬を比較し、認知症の発症リスクに違いがあるかを検討しました。対象は、メトホルミンを使用しており、認知症の既往がない66歳以上の糖尿病患者で、新たにGLP-1RAまたはDPP4iを開始した約7,000人を追跡しました。
解析の結果、30か月の追跡期間において、GLP-1RAを使用した群とDPP4iを使用した群との間で認知症の発症リスクに明確な差は認められませんでした。ただし、年齢別にみると、75歳未満ではGLP-1RA群で認知症リスクが低下していた一方、75歳以上では差がみられませんでした。
本研究は、GLP-1RAが認知症リスクに与える影響が一様ではない可能性を示唆しており、特に比較的若い高齢者では潜在的な予防効果があるかもしれないことを示しています。今後本知見に、進行中のRCTの結果などがあわさることで、実臨床への適切な応用が期待されます。
本研究成果は、国際学術誌「Annals of Internal Medicine」に、7月22日に公開されました。
Inoue K*, Saliba D, Gotanda H, Moin T, Mangione CM, Klomhaus AM, Tsugawa Y. Glucagon-Like Peptide-1 Receptor Agonists and Incidence of Dementia Among Older Adults With Type 2 Diabetes: A Target Trial Emulation. Ann Intern Med. 2025. Online ahead of print.
責任著者:井上浩輔
リンク:
https://www.acpjournals.org/doi/10.7326/ANNALS-24-02648