社会疫学分野 井上浩輔准教授(白眉センター)とハーバード大学の研究チームは、米国におけるコロナ前後のうつ症状の推移を明らかにし、JAMA Internal Medicine誌に発表しました。
COVID-19パンデミックによって、社会的な孤立や経済状況の悪化、医療サービスの中断が人々の心の健康に悪影響を与えた可能性が以前より懸念されていましたが、エビデンスは様々であり、アメリカの国民全体に与えた影響については十分にわかっていませんでした。そこで本研究では、2013年から2023年にかけて実施された米国の全国調査(NHANES)のデータを使用し、アメリカの成人を対象に、パンデミック前後でうつ症状(PHQ-9のスコアが10点以上と定義)の頻度がどう変化したのかを、年齢や人種、収入などの属性ごとに調べました。
全体として、うつ症状を示す人の割合は、パンデミック前(2013~2020年)の8.2%から、パンデミック後(2021~2023年)には12.3%に増加しており、その差は20~44歳の若年層で顕著でした(+6.0ポイント)。性別、人種、収入の違いによる明らかな違いは認められませんでした。
本研究から、パンデミックにより若年層を中心にうつ症状を示す人の割合が増加したことが明らかになりました。明らかな因果関係や背景メカニズムは不明ですが、学校や公共の場の閉鎖などが若者の孤立感を強めたことが一因と考えられます。米国政府はオンライン診療の拡充や自殺対策窓口の導入などを行ってきましたが、今後は医療従事者の不足や保険制度の課題にも対応し、心のケアへのアクセスをより高める必要があると考えられます。
本研究成果は、国際学術誌「JAMA Internal Medicine」(オンライン)に、5月6日(火)(日本時間)に公開されました。
Depressive Symptoms Among US Adults. Inoue K, Liu M, Koh KA, Aggarwal R, Marinacci LX, Wadhera RK. JAMA Intern Med. 2025 May 5:e250993.
リンク:
https://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/fullarticle/2833234