京都大学 大学院医学研究科 社会健康医学系専攻

活動報告:多文化共生時代の医療に関するパネルディスカッション

一般 2025年01月31日

2024年11月16日(土)午後、京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻健康情報学分野が主催するパネルディスカッション「多文化共生時代の医療:外国人患者のための医療者の対応力を高める」が開催されました。このイベントは、ZOOMおよび京都大学医学部キャンパスで行われ、学生、教職員、医療従事者、関係者など約40名が参加しました。このイベントは、トヨタ財団の「外国人材の受け入れと日本社会」に関する助成事業の一環として実施されました。

パネルディスカッションハイライト

  1. 開催の辞:『多文化共生時代の医療とは?』
    京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻 健康情報学分野・国際化推進室の河野文子が、本パネルディスカッションの目的を紹介し、日本の医療環境の変化における文化的感受性と適応力の重要性を強調するとともに、このディスカッションが医療環境の改善につながることへの期待を述べました。
  2.  

  3. トヨタ財団代表者からの挨拶
    トヨタ財団の代表者は、外国人患者への治療とサービスの向上が、最終的には日本人患者の医療の改善にもつながり、より包括的で強固な医療システムの構築に寄与することを強調しました。
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  5. ビデオ上映:『異国の地、日本での医療体験:外国人が語る日本での医療機関受診の体験談』
    インドから2名、イランから1名、ベトナムから1名の計4名の外国人患者のインタビュー映像が上映されました。このビデオでは、日本の医療サービスを利用する際の課題や経験が共有され、改善が必要な分野について、当事者の語りとしての約20分間のビデオが上映されました。
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  7. 発表
    各分野で豊富な専門知識と経験を持つ多様な講師が登壇しました。
    (以下、敬称略)
     

    『イスラム教徒への医療提供の際の課題』

    京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻 健康情報学分野
    特定講師 河野文子
    日本在住のイスラム教徒(インドネシア人、マレーシア人)が医療機関を受診する際に直面する課題として、1) イスラム教の教えに沿った治療を希望、2) 日本の医療制度への戸惑い、3) 救急医療の利用方法に関する知識不足、4) 同胞に支援を求めること、5) 言語の壁について説明しました。

  8. 『外国人ムスリム住民が医療機関を訪れる際に直面する課題』

    在大阪インドネシア共和国総領事館 経済担当領事 ズフリ・ハディ
    ズフリ・ハディ
    外国人ムスリム住民が医療機関を訪れる際に直面する課題として、1) ハラール認証を受けた医療サービスの欠如、2) 薬剤やワクチンのハラール認証不足、3) 言語の壁、4) 性別に関する配慮、5) 礼拝スペースの不足、6) イスラム法に基づく柔軟な緊急時対応について挙げられました。また、医療分野の競争が激化する中、病院が差別化と専門的な患者ケアを向上させるための戦略として、ハラール認証の取得が有効であることを提案されました。

    『在日ベトナム人の精神的健康状況とアプリケーションを用いた支援の試み』

    神戸市看護大学看護学部講師 山下正
    在日ベトナム人の精神的健康状況と支援として、1) 雇用の確保と相談相手の提供の重要性、2) 経済的脆弱性と社会的つながりに対する包括的支援の必要性、3) 感染症や災害による医療アクセス困難の軽減措置、4) 孤独・孤立対策推進法を踏まえたICTを活用したデジタルヘルス戦略、5) アプリケーション「Kobe Cứu」を用いた支援体制の構築の試み、について発表しました。

    『ベトナム人患者の医療通訳の経験』

    京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻 健康情報学分野
    専門職学位課程学生 ズォン・カム・ニュン
    ベトナム人患者の医療通訳の経験を基に、在日ベトナム人の一般的な特徴や健康行為の傾向、さらに医療機関を受診する際に直面する通訳不在や言葉の壁による受け入れ拒否、文化的背景の違いによる意思疎通の困難、医療制度に対する不満や不安について発表しました。

    『在日インド人の視点から見た日本とインドの医療』

    京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻 健康情報学分野
    博士後期課程学生 スワティ・ミタル
    在日インド人の視点から、日本とインドの医療の違いについて、インド人の食習慣や入院中の嗜好、ヨガや瞑想の活用、医薬品の多様性、ハーブ療法、インド人がかかりやすい病気、および日本では稀または存在しないがインドでは存在する病気等に触れて発表しました。

    『薬局での外国人対応:いま薬局の現場で起こっていること』

    和歌山県立医科大学薬学部 社会・薬局薬学研究室 教授 岡田浩
    薬局での外国人対応について、言語や文化の違い、医療制度の説明や市販薬の説明の難しさに直面する現状を挙げ、多言語ポップやアプリ、資料の活用といった工夫を通じて、限られた時間やリソースの中で業務の質を維持する方法を模索していることを発表しました。

    『外国人と薬局: Accessibility向上に向けた取り組み』

    和歌山県立医科大学薬学部 社会・薬局薬学研究室助教 鈴木渉太
    外国人にとっての薬局や薬剤師へのアクセシビリティ向上のため、1) 言語通訳不在への解決策として多言語対応資材・アプリ「OMOTENASHI」の開発、2) 薬学における文化的能力(カルチュラル・コンピテンス)教育の推進などの戦略について発表しました。

    『多文化共生時代における医療: 医療従事者の視点から』

    京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻 健康情報学教授 中山健夫
    多文化共生時代における医療について、医療従事者が文化能力を身につけることの重要性と、その教育が健康格差や医療の不平等を解消するための戦略として注目されていることを発表しました。また、医療現場で直面する課題として、日本人と外国人の共通課題、外国人特有の課題、医療制度や語学等に関連する課題を挙げ、それらを整理し改善への方向性を議論しました。
     

  9. パネルディスカッション
    最後は、全登壇者が参加するパネルディスカッションで締めくくられました。ヘルスリテラシーの向上に向けた取り組み、医療提供者が言語の壁を克服するための姿勢、薬局における外国人患者の多様なニーズに対応する体制の構築など、多文化共生時代における医療現場が直面する課題とその解決策について活発な議論が交わされました。