活動報告: 京都大学SPH国際レクチャー スウェーデンの社会保障制度と就労・介護 – Swedish Social Security Systems for Adults –
2024年10月11日午後、京都大学大学院医学研究科社会健康医学専攻(KUSPH)にて、「スウェーデンの社会保障制度と就労・介護 – Swedish Social Security Systems for Adults -」をテーマに国際レクチャーが開催されました。約20名の学生と教員が参加し、ZOOMでのオンライン形式で行われました。本講演では、KUSPHに約1か月間、特別招聘准教授として招聘している、スウェーデン・オレブロ大学の日吉綾子准教授に、スウェーデンの就労・介護に対する社会保障制度について、ご講演頂きました。
講演では、初めにご自身の経歴とオレブロの街及び大学の紹介の後、日本と対比しながら社会保障の制度の概要についてご説明頂きました。最大の特徴は、スウェーデンの社会保障の制度は財源が税金で賄われていることで、国で一貫した医療・福祉サービス提供、例えば国で精査した健康情報等を1177という公式な健康情報ポータルで配布していることなどが紹介されました。スウェーデンの社会保障システムは、世界的にも常に高評価を得ているが、様々な背景が異なるので、日本にそのまま導入することは考えにくい一方で、スウェーデンの保障内容、利用の仕方を参考に、日本のシステムを改善・拡充することは可能であり、国民にも利益があることが強調されました。
次に、各論として、就労者への社会保障、介護保険制度、介護者へのサポートをご紹介頂きました。就労者への社会保障では、制度として育児休暇や失業手当の概要をご説明頂き、そうした制度に支えられ、男女とも90%近く就業していることなどが紹介されました。スウェーデンにおける育児休暇の大きな特徴は、8歳になるまで480日の休暇を自由に配分して使用できること、仕事を制限する権利があること、市が夜間・週末も含めた公的保育を提供する義務を負っていることがありました。労働者の育児や病気による療養休暇などは税金で賄われているので全国民同じ保障で気兼ねなく利用でき、転職に関係なく持ち運べること等が大きな特徴でした。失業手当の説明では、がん患者の失業手当受給状況についてご自身の研究結果をご共有頂きました。がん診断を受けてすぐは、療養休暇取得などの影響により、失業率は、がん患者でない方よりも下がり、その後も12年経過しても失業率はがん罹患有無によって違いは見られないそうです。介護保険制度では、まず背景として日本よりも高齢化率は低いが、GDPに占める介護費用の比率はスウェーデンの方が多いことをご共有頂きました。スウェーデンにおける介護の基本的な方針は、財政負担の観点から自宅でのサービスを最大限延長することが基本で、老人ホームは最後の手段だそうです。在宅サービスは日本の倍以上の人が利用していて、緊急時アラームに人気があることが紹介されました。在宅サービスを拡充することで、老人ホームは入居期間が平均2年程度と短いため、ターンオーバーが早く、待機期間が60日ほどであることが特徴であることをご紹介頂きました。スウェーデンでは、介護を社会の責任としていますが、介護者へのサポートもあり、年100日までの介護休業手当は家族だけでなく、近所の人や友人も受給対象となるそうです。ご自身の研究から、家族の病気について、配偶者は影響を受けるが、世代を超えての影響は見られないという結果もご共有頂きました。
最後に、スウェーデンと日本の福祉国家創設時の理念を対比し、これらの理念が国民性を反映しておりかつ今でも私たちの生活に影響を及ぼしていることについてご紹介頂きました。そして、「病気の主要な決定要因は経済的・社会的なものであり、したがってその治療方法も経済的・社会的なものでなければならない。医学と政治は切り離しては考えられない」というローズ先生の言葉を引用し、ご講演がまとめられました。
ご講演の後には、サービス維持のために民間を取り入れようとする動きや、歯科医療、研究に使用したデータベースや若年の方に対する介護サービス、夜間保育サービスの要件、民間と公的サービスの質の違い、地域ボランティア活動などについて、質疑応答が行われました。