京都大学は、このたび、国立精神・神経医療研究センター(以下、「NCNP」)とともに、両者が開発したうつ病の治療をめざしたスマートフォン用アプリケーション「こころアプリ」」について、田辺三菱製薬株式会社との三者で、本アプリの医療機器製造販売承認取得をめざした臨床開発および販売に関するライセンス契約を締結しました 。「こころアプリ」は健康増進・行動学分野の古川壽亮教授と、NCNP認知行動療法センターの堀越勝センター長が開発した認知行動療法に基づくうつ病治療アプリです。
京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻健康増進・行動学分野の古川壽亮教授と、NCNP認知行動療法センターの堀越勝センター長が開発した「こころアプリ」は、精神療法の一つである認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy 、以下「CBT」)にもとづく治療用アプリです。これまでにうつ病患者さんを対象とした医師主導臨床研究(FLATT試験*)で、抗うつ薬との併用により、薬剤単独群と比較して、うつ病の症状を改善することが確認されています。娯楽性や視覚的な工夫をこらした本アプリを、薬物療法と併用して使用することで、抗うつ効果をさらに高めることが期待されており、うつ病の治療用アプリとして、日本で初めての医療機器製造販売承認の取得をめざします。
今回の契約により、田辺三菱製薬会社は、医療機器としての製造販売承認を取得するために必要な臨床試験(開発番号:MTD-810)の実施、および承認取得後の販売に係る日本国内の権利を独占的に有します。MTD-810の開発にあたっては、医療機器として承認を得るために、臨床試験の実施と、有効性の証明が求められます。京都大学とNCNPが開発した本アプリを、中枢神経領域を重点領域とする田辺三菱製薬株式会社と協力して、2025年度までの実用化をめざし医療機器として臨床開発をすることで、うつ病と闘う患者さんへ、より身近で簡便にCBTを受けることができる環境を提供していきます。
京都大学健康増進・行動学分野は、2010年の古川壽亮教授着任以来、臨床疫学(根拠に基づく医療EBMの理論的基盤)と認知行動療法(CBT)を2本柱に、人間の健康や疾病にかかわる認知や行動を変容する方法の研究開発に携わっています。とくにコモンメンタルディスオーダー(うつや不安)の予防や改善のための精神療法および薬物療法の検証、治療だけでなく予防および診断・予後判定のためのデジタル医療の開発(大学生のメンタルヘルス増進のためのスマートフォンアプリによる完全要因ランダム化試験)、身体疾患(過敏性腸症候群、アトピー性皮膚炎、過活動性膀胱、がんサバイバーなど)への精神療法の研究を進めています。こころアプリについても、医療機器としての承認を得ることが、日本中の患者さんに利用していただけるために非常に重要な一歩となると考えています。Withコロナ、さらにAfterコロナの時代に、デジタル医療・遠隔医療が注目されています。健康増進・行動学分野は、根拠に基づく遠隔メンタルヘルスに、さまざまなレベルで貢献できるよう研究を進めてまいります。
* Mantani A, Kato T, Furukawa TA, Horikoshi M, et al. Smartphone Cognitive Behavioral Therapy as an Adjunct to Pharmacotherapy for Refractory Depression: Randomized Controlled Trial. Journal of Medical Internet Research 2017;19(11):e373