京都大学 大学院医学研究科 社会健康医学系専攻

健康増進・行動学分野が教室をあげて2010年来取り組んできた、n=2011人の実践的メガトライアルの結果がBMC Medicine (IF=9.088)に発表されました。未治療のうつ病エピソードのファーストライン治療とセカンドライン治療に新たな指針をもたらす結果です

一般 2018年07月17日

うつ病は日本国民にとってその生活の質(QOL)を損なう最大の原因であり、さらに今後20年間その損失は増加傾向にあると推定されている。現在、うつ病の治療の中心は抗うつ剤、特に、SSRI、SNRI、NaSSAに代表される新規抗うつ剤である。しかし、薬物療法を開始するに当たって、①最初にどの抗うつ剤をどの量で使用し、②治療反応が不十分である場合にいつどのように治療戦略を変更するかについての十分な実践的エビデンスは得られていない。そこで、われわれは、先行するメタアナリシス研究により効果および受容性のバランスに優れた抗うつ剤(SSRI)と、非常に効果は高いが受容性がその効果ほどではないNaSSAを、どのように組み合わせると最も効果がありかつ安全で飲みやすい薬物治療指針となるかを解明するために、古川壽亮教授をPrincipal Investigator として、実践的大規模臨床試験を実施した。

2010年12月から2015年3月にかけて、日本全国48医療機関にて合計2011人の未治療うつ病エピソードの患者さんにご参加をいただいた(平均年齢43歳、女性54%)。

ファーストライン治療では、970人がセルトラリン50mg群に、1041人がセルトラリン100 mg群に割り付けられた。治療開始から9週間後、両群の抑うつ重症度、副作用の重症度に有意差はなかった。25週後、両群間に効果、副作用の差はなかった。

ファーストライン治療で3週間後では寛解に至らなかった1646人のうち、551人はセルトラリン継続に、537人がセルトラリンとミルタザピン併用に、558人がミルタザピンへの変薬に割り付けられた。治療開始から9週間後のPHQ9スコアで、併用群は0.99点、変薬群は1.01点、継続群よりも低くなっていた(それぞれp=0.0012)。併用群と変薬群の間には差がなかった。反応率は継続群、併用群、変薬群で約43%、52%、50%であった。寛解率は25%、36%、32%であった。副作用の重症度に3群間の差はなかった。25週間後、3群間に効果、副作用の差はなくなった。

​​新たに発症したうつ病エピソードに対して、初期治療薬としてセルトラリンの投与量のターゲットを100 mgとすることは、50 mgとすることに比して、何の利点もない。3週間後に寛解に達しない場合は、ミルタザピンに変薬、またはセルトラリンにミルタザピンを併用することで、9週間後の反応率も寛解率も約10%上昇することが期待される。

本研究は、抗うつ剤の臨床試験としては世界で3番目の規模をほこり、今まで様々な意見があったファーストラインの抗うつ剤のターゲット投与量、そしてファーストラインで反応が不十分な場合のセカンドライン治療についていつ何をするかについて、新しい知見をもたらした。

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Kato T, ​​Furukawa TA*, Mantani A, Kurata K, Kubouchi H, Hirota S, Sato H, Sugishita K, Chino B, Itoh K, Ikeda Y, Shinagawa Y, Kondo M, Okamoto Y, Fujita H, Suga M, Yasumoto S, Tsujino N, Inoue T, Fujise N, Akechi T, Yamada M, Shimodera S, ​​Watanabe N, Inagaki M, Miki K, ​​​​Ogawa Y, ​​​​Takeshima N, ​​​​Hayasaka Y, ​​​​Tajika A, ​​​​Shinohara K, Yonemoto N, Tanaka S, Zhou Q, Guyatt GH & for the SUN(^_^)D Investigators (2018) Optimising first- and second-line treatment strategies for untreated major depressive disorder – the SUND study: a pragmatic, multi-centre, assessor-blinded randomised controlled trial. BMC Medicine, 16, 103. (*: 責任著者、下線は健康増進・行動学分野メンバー)​