京都大学 大学院医学研究科 社会健康医学系専攻

2020年度の卒業生の声

 

季律

 私は中国で薬理学の修士課程を修了して、すぐに京都大学SPHに入学しました。中国では学部時代から漢方薬に関する基礎研究を行ってきましたが、細胞や動物実験に基づいたミクロな視点だけでは、薬物の有効性や安全性を評価することは明らかに限界があると感じていたのです。マクロの視点で、薬物が実際に安全かつ真の効果を果たしているのかを評価する方法について学びたいという気持ちが強まり、薬剤疫学分野の専攻を選択しました。
 京大SPHでは、医療統計をはじめとする疫学に関する基本知識のほか、行動科学や行動経済学など、今まで興味があったにも関わらず、なかなか系統的に学ぶ機会が得られなかった幅広い分野にも触れることができました。特に自身が所属する薬剤疫学教室では、データベースに関する知識や、データベース研究を行うための手法を基礎から身につけることができました。また、周囲には、医師、看護師、弁護士など自身と異なるバックグランドを持つ学生がほとんどです。皆さんと接することによって、様々な意見を取り入れられ、社会を見る視野が広がりました。さらに、授業の形式としてもグループワークやグループディスカッションが多く、正解がないテーマが多いので、自身の意見もきちんと出すことができ、他の方の意見に気づかされることも多く、大変勉強になります。
 京大SPHでの経験はこれまでの人生の中でも一番貴重なエピソードになると思います。日本語を母国語としない留学生として、最初は多少不安も抱えていましたが、SPHで出会った暖かい方々に親切にサポートして頂いたおかげで、挫折しながらもとても充実した二年間を過ごすことができました。この恵まれたご縁に感謝する気持ちを忘れず、これからも日本で自己研鑽に励んでいきたいと思います。

 

島﨑 琴子
医学コミュニケーション学分野

 私は看護師を3年経験した後、中南米にあるニカラグア共和国で「清潔な水とコミュニティの健康」を目標とするNGOで健康プロモーターとして勤務していました。社会や経済、教育環境が医療に大きく関わることを実感し、ニカラグア人が健康的な生活を送るための情報をどのように伝えれば、より良いのか日々悩んでいました。公衆衛生を体系的に学びながら、コミュニケーションについて深めたいと考えていた時、医学コミュニケーション学の存在を知りました。医学コミュニケーション学分野では「社会と医学をつなぐヘルスコミュニケーション」について岩隈准教授のご指導により、コミュニケーション学や医療社会学、障害学の視点から学ぶことができ、これまでの自分が医療者の視点に偏っていたことに気がつき、社会的な面からも医療を捉えられるようになりました。
SPHでは疫学や医療統計学などの公衆衛生の基礎から、健康行動学や国際保健学などを学ぶ機会がありました。授業はグループワークやディスカッションが多く、様々なバックグラウンドを持つSPH生と語り合うことのできた時間は大変刺激的でした。
 学内での学び以外にも、SPH Super Global Courseの助成金で研究の事前調査として再びニカラグアを訪問する機会を頂きました。また、岩隈准教授よりいただいたご縁で日立京大ラボのプロジェクトにも参加しました。このプロジェクトでは2050年の社会課題の探究に向けて、VR技術を用いたデジタルコンテンツを作成するという内容に関わらせていただき、「情報をつくる」難しさを感じた貴重な経験でしたが、自身の研究に向けたヒントともなりました。
 京大SPHは、包括的に公衆衛生を学びながら、自身の関心分野を深めるための環境に恵まれています。SPHが皆様の視野をさらに広げる一歩となることを願っております。

 

June Low
Department of Health Informatics

 The learning experience at KUSPH has been the challenge I needed to really up my game. Over the last few years, I believe I have progressed from simply being a practitioner, to becoming someone with greater perspective and more to contribute to society. Here, I have had the privilege of learning from experts in the field of public health, the freedom to explore my research interests and, most importantly, opportunities to grasp important life lessons from Japanese culture.

The school offers a plethora of opportunities to broaden students’ horizons. There are many scholarships that students can use to travel abroad for their professional development. In my time here, I have had the chance to attend many international conferences and meetings in various countries. In addition, distinguished academics and professionals from all around the world are regularly invited to teach workshops and give lectures. I have particularly enjoyed the focus on research integrity, which I think says so much about the ethos of this institution that I am proud to belong to.

Students at KUSPH come from all walks of life, many of them professionals and highly skilled at what they do. Yet, they are some of the most affable and sincere colleagues I have ever had the pleasure of knowing. Outside the classroom, my friends and I gather regularly to have a good time and share experiences. These are the moments I have treasured the most in my time here.

山本 基佳

 「臨床研究の指導をしてもらえませんか?」。卒後10年以上が経った頃、長野県の病院で救急医として臨床と研修医教育をしていた私の元に後輩が相談にやってきました。それまで自分はケースシリーズまでしか発表をしたことがなく、後輩に十分な指導ができませんでした。「指導をするためにはまずは自分が経験を積まねば」と、臨床研究の学び方について泥縄的に情報を集めることにしました。その後、School of Public health(SPH)で学ぶことが近道であること、京都大学SPHには伝統と実績があること、京都大学SPHの学生・修了生が精力的に活動をしていることがわかりました。私の場合、京都・長野間の定期的な往復や、通学中の休職の問題などハードルもありましたが、調べれば調べるほど意欲に火が付き、新しい世界に飛び込むことを決めました。医療疫学分野に所属し、2年制専門職学位課程で臨床研究者養成コースを受講することになりました。
 希望を胸に抱き門を叩いた頃、私はすでに40歳も間近でしたので「授業や課題についていけるだろうか」「学生生活に馴染めるだろうか」という不安もありました。ところがそんな心配は杞憂に終わりました。たしかに常に複数の課題に追われながら、平行して自分の研究も進めなくてはならず、学生生活は決して楽ではありません。内容もかなり高度なものが多くありました。しかし、授業は初学者にもわかりやすく進められ、かつ興味を持てるように教えていただきました。教員の先生方は教育に熱心で、指導は建設的なものでした。またグループワークも多かったので、教室の垣根を越えて新しい友人も多くできました。様々な年代、様々な職種、様々な国籍の友人で、私にとってそれまでにない仲間でした。困ったとき、わからないときに相談したり、別の観点からの意見をもらったり、ときには気分転換に飲みに出かけたりと、切磋琢磨して過ごした学生生活はとても充実したものでした。同じ釜の飯を食った同期とは今後一生の付き合いになると確信しています。
 パンフレットをご覧の皆様の中にもSPHに向けた様々な夢や期待がある一方で、なんらかの不安や困難があって進学について迷っている方がいらっしゃると思います。まずはサイトをみたり、オープンキャンパスに参加したり、小さくてもよいので一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。この修了生からの声も、微力ながら皆様のSPH進学への追い風になれば幸いです。

 

松林 潤
臨床統計家育成コース

 私は元々,京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻リハビリテーション科学コース(作業療法学講座)に助教として12年間勤務していました.研究生活の中で,自分を含めた多くの研究者が統計で困っている,ということを強く感じ,「自分が統計を分かるようになれば,他の人の役に立てる」と思うようになりました.そこで仕事を辞めて,SPHの臨床統計家育成コースで医療統計を学ぶことにしました.と,さらっと書きましたが,突然大学を辞めて大学院に入ると私が言い出したので,周りには相当驚かれました.
そんな経緯があって SPHの臨床統計家育成コースに入学したのですが,とにかく教育がきちんとしている,ということに驚きました.講義・演習・実習が充実しており,学ぶための仕掛けが豊富に準備されていました.講義では分からなかったところも,実習で手を動かしレポートをまとめているうちに少しずつ分かってくる,の繰り返しで,頑張ったらその分しっかりと知識と技術がつく,と思えるカリキュラムでした(ただし肩こりと眼精疲労のおまけがつきます).また統計のコースが公衆衛生大学院の中にある,というのが実は重要で,統計学だけでなく,疫学を始めとした公衆衛生学のコア領域を満遍なく学べますし,また分野横断的なグループワークの中で,医師や医療関係者と一緒に勉強したり問題解決したりする経験を積むことができました.医療統計を専門とするならいずれ医師・医療関係者と連携することになるので,在学中に自然とそういった経験を積めるというのは大きなメリットだと思います.
また良い課題研究を行うための環境も整備されていました.臨床試験や疫学研究の現場で,どのような統計的問題が議論されているのか,問題解決のためにどのような統計手法が求められているのかを講義やゼミ等を通じて知ることができ,自然と新たな研究のきっかけを得られました.また研究室内のゼミ発表,小グループでの発表を通じて,自分の研究について先生方や他のメンバーと念入りに検討することができるので,有意義なテーマを選び,それを適切な方法で掘り下げることができると感じました.
一緒に学ぶメンバーにも恵まれました.臨床統計家育成コースは,医療統計をこころざす選りすぐりの人達が全国から集まってきており,講義の課題では協力し合い,研究面では刺激し合う,という良い関係を築いていました(皆さん賢くて勤勉なので,正直に言いますと私はかなり焦りました).
臨床現場で頼りにされるような統計家になりたい,と思う学生さんは,ぜひ臨床統計家育成コースに来てください.充実した2年間が待っています.