京都大学 大学院医学研究科 社会健康医学系専攻

2018年度以前の卒業生の声

■専門職学位過程

社会健康医学系専攻の感想

右京芳文(医療統計学)

右京 芳文
医療統計学分野

 30代後半のある日,思い切って勤務先に相談し東京で仕事を継続しながら京大SPHの門をたたくことになりました。私が京大SPHを選択した理由は2つあります。1つ目は医療統計の専門家である佐藤先生の指導を受けたかったこと,2つ目は講義内容が実践的で社会人経験のある私でさえも魅力的に見えたことです。また,入学してみて実感しましたが,学生のバックグランウンドが多岐に渡っていることで多様性が生まれそのことで様々な価値観や考え方が創出される点は学生のみならず教員の方々にも良い刺激になっているのではないかと想像します。
 普段の仕事で遭遇する疑問も学問体系の中で理解するとまた違った側面が見えたり理解が深まったりします。こうした一歩進んだ理解や洞察により心が豊かになれる経験を京大SPHでぜひ体験して頂きたいです。講義だけではなく専門職学位課程では課題研究が課されている点も大きな特徴です。毎年2月に開催される課題研究発表会では,教員及び学生が全員参加し議論します。主査,副査の先生方の本気の突込みとそのディフェンスを1年目に見た私は正直驚いてしまいかなり自信がなくなりました。しかし,先生方の疑義は各研究領域で当然出てくるべき質問でありこれらに対応できないようでは修了後に困ると思います。こうした課題研究を2年目の約1年間しっかりと取り組める環境が京大SPHにはあります。2年間の課程を修了したらきっと何かが変わっているはずです。私は,指導教官の佐藤先生に人生を変えてもらえたと思っています。人生を変えたいあなた,ぜひ京大SPHに飛び込んでみてください。ただし,対岸にたどり着けるかどうかはあなたの努力次第です。相当な覚悟を持ってきてくださいね。

目標を持ち、自分自身に合った学び方を

小野芙美子(知的財産経営学)

小野 芙美子
知的財産経営学分野

 私は、医療機器の技術開発業務を通して生じた課題から、医療技術評価に関する知識やスキルを身につけるという目標を達成するため、社会健康医学系専攻の門を叩きました。
 そして、臨床からライフサイエンス研究までを俯瞰するため、健康情報学教室にて1年間研究生として所属した後、専門職学位課程として知的財産経営学分野に進みました。また、医療技術評価の基盤となる知識や経験を身に付け、さらに社会に提言するという目的を達成するために、副専攻として政策のための科学ユニットへ挑戦し、結果として薬剤疫学教室の先生方のご指導の下、薬剤疫学研究へ取り組むという好機を得ることができました。
 このように、社会健康医学系専攻では、各自の目標に併せて様々な学び方をすることができます。取り組みたいという、意志があれば道は開かれています。
 専門職学位課程での2年間は、2つの研究に取り組むという、私にとってハードルの高い挑戦となりました。しかし、社会健康医学系専攻には、厳しくも温かくご指導してくださる先生方が沢山おられ、高い目標を達成することができる環境があります。同期からも多くの刺激を得ました。勉強のこと、研究のことに関して何度も議論し、切磋琢磨し互いに成長できたと感じています。
 社会健康医学系専攻での学びは、私にとって何ものにも代えがたい経験であり、素晴らしい先生方、同期との出会いは、今後の人生においてずっと宝になると信じています。

 

大林由香里(社会疫学)

大林 由香里
医学研究科 社会疫学分野

 学部生時代、人類学の先生のもとでフィールド調査をしていましたが、データの客観性や質的研究法を補完できるような分析手法を学びたくて、非医療系ながらSPHの社会疫学研究室へ入学しました。SPHは広く門戸を開いており、医療系が大半を占めつつも、非医療系の声にも耳を傾け、受け入れてくれるような環境で、SPHでの二年間は短くも有意義な日々でした。
 SPHでは、先生方の専門性の高い授業に加えて、在学中に様々な実践機会が用意されており、SPHが参加するスーパーグローバル大学創成支援事業を利用したLondon School of Hygiene & Tropical Medicineでの滞在や、グローバル生存学大学院連携プログラム(GSS)におけるフィールドトリップ、ハーバード公衆衛生大学院プログラムへの参加など、学んだ知識を応用できる場に数多く参加できた点も自分の研究を磨き上げていく上で非常に意義深いものでした。
 入学を悩んでいる非医療系のみなさん。医療従事者がほとんどを占めるような環境に飛び込むことは無謀で、困難なことだと思われているかもしれませんが、こんなにも学びの場が用意されているところはSPHをおいて他にないと思います。むしろ、新しい視点を持ち込む勢いで、SPHに学びに来てはいかがでしょうか。

刺激的で濃密な1年でした

堤-育代(医療経済学)

堤 育代
医療経済学分野

 私は地方病院の血液内科医師として10年余り診療に携わってきました。研修医の頃は論文がなんとなく読めていればそれでよく、研究というものを深く意識していませんでしたが、医師としての年数を重ねるにつれ様々な臨床疑問が出てくるようになり、自分には疑問を解決できるような研究をする能力も、研究の成果を正しく読み取る能力も足りないと気づくようになりました。そんな時に出会ったのが京大SPHです。仕事を辞めるのは難しかったため、休職で対応可能な1年間のMCRコースは本当に有り難かったです。
 SPHの講義や実習ではさまざまな分野の基礎知識と実践的な内容を広く教えて頂きました。教えて頂いた事ひとつひとつがどれも新鮮で驚きに満ちたものでした。大学卒業から年数も経っており、長時間の授業に集中できるかと心配もありましたが杞憂でした。また、所属している医療経済学分野の教室はいつも活気があり、研究に悩んだときや疑問が生じた時には、教官の先生方や院生の皆さんが優しく相談に乗って下さいました。様々なバックグラウンドの同期たちとの学習も刺激になりました。卒業後は後期博士課程に進学し、引き続き学んでいきたいと思います。

■医学博士課程

モヤモヤの向こうに

田近-亜蘭(健康増進・行動学)

田近 亜蘭
健康増進・行動学分野

 漠然と何かを調べようとして、とりあえずデータをとってみた経験、あるいは学会発表のノルマのために有意差のあったものを探して、したり顔で発表したという経験はありませんか?私は精神科医として大学病院に勤務する中で、こういったやり方にモヤモヤしたものを感じながらも、だからといって、どこがどう問題なのかを論理的に説明できないままに暮らしていました。しかし、このモヤモヤは臨床経験とともに次第に大きくなっていきます。そして、それがどうしようもなくなった時に京大SPHのことを知り、思い切って入学しました。
SPHでは公衆衛生に関係する様々な分野の系統的な講義があり、大学生の頃以来の久しぶりのレポート・発表三昧です。その中で研究の方法論の王道を学べます。下手な方法に基づく研究は砂上の楼閣であり、そうならないためにはどうしたらいいかを自分の頭で考えられるようになります。そしてモヤモヤが晴れると、意外に世界はすぐそこにあることに気づくはずです。
京都での学生生活はとても楽しく充実しています。ロケーションは完璧です。長い人生のほんの数年、思い切って学生に戻ることをお勧めします。そこからの人生、変わると思いますよ。

専門職学位課程を受講して

岸田瑠加
健康情報学分野

私は、歯科麻酔科に所属する歯科医師です。初期臨床研修を経てすぐに社会健康医学系専攻(SPH)の専門職学位課程へ入学しました。臨床経験が浅かったことから、自分の専門性を深めるとともに臨床疫学研究を行うべく、社会人大学院生として働きながら学ぶことを選択しました。多忙ではありましたが、様々な専門性を持つ志の高い仲間に支えられ、第一線で活躍されている著名な先生方から、臨床疫学研究に関する知識を系統的な講義で学ぶことができ、非常に刺激的で有意義な日々を過ごせました。さらに、それらを自分のフィールドへ応用し、研究実施の楽しさや難しさを肌で感じるなど、教科書や先行研究といった机上では得られないことも経験できました。京都大学のSPHは、学問と臨床の場をつなぐための手法を身につけられる、大変貴重な場であると思います。本学で得た人脈と知識は、私の人生において大きな財産になるであろうことを確信しております。医療従事者に限らず、確かな根拠に裏打ちされた価値観を社会に発信したい方には、ぜひとも入学をお勧めします。

ゴールまでの軌跡が描けず苦しんでいる人に

岩上直嗣
健康増進・行動学分野

もう限界でした。
 医師として、循環器内科医として日々真摯に患者さんと向き合えば向き合うほどに、調べても解決されない疑問が積み重なり、信じていたエビデンスには裏切られ、自ら実証しようにもやり方がわからず、救いを求めるように京大の門を叩きました。
 たった1年しか学んでいない半端者です。偉そうなことは言えません。でもこの1年でずいぶんと引出しが増えたように思います。臨床医学には、ヒトを相手にする性質上、特有のロジックがあります。何か素晴らしいアイデアがあってもそれを世に認めさせるためには一定のお作法に乗っ取って主張する必要があります。このお作法というのが曲者なわけですが、それはともかくとして逆に最低限のお作法を通り一遍学んでおくだけで、研究の幅は著しく広がります。実際に自分で使うかどうかは別として、こんな研究もできる、という選択肢とその基礎を知っているのと知らないのとでは大きく違うのではないでしょうか。あるいはその手法に詳しい人にいつでも相談できる環境というのは日本において他にあるのでしょうか。
 私にはこれを独学で学ぶことはできませんでした。学部生の頃から臨床研究に興味を持って片手間で統計の本を広げてきた身です。でも、統計を使う前にそもそも比較するに値するのかどうか吟味する事の方が小難しい統計の手法を知っているよりもはるかに重要だなんてどの本にも書いてありませんでした。
 自らのフィールドとアイデアを持ち、でもそれをどのように生かせばよいのか、ゴールまでの軌跡が描けず苦しんでいる人にこそ京大SPHをお勧めします。

医師人生の転機となる1年間

古板 規子
予防医療学分野

2013年、私は、卒後10年目の産婦人科医として勤務していました。専門医取得後、次の目標もみつからないままに日々を過ごしていましたが、そんな時、たまたま京都大学に臨床研究者養成コース(MCRコース)が設置されていることを知りました。臨床研究には以前より興味があり、さっそく調べてみると、願書の締め切りがあと2週間(!)という時期でした。大急ぎで準備をして、なんとか2014年4月にMCR専科生として入学することができました。
久々の学生生活はとても新鮮で、目まぐるしく毎日が過ぎていきました。授業では、疫学、臨床研究のデザイン、医療統計学や統計ソフトを使用した実習など、これから臨床研究を始めるうえで必須となる知識を系統的に学ぶことができました。先生方の熱意あふれる授業はもちろん刺激的でしたが、さまざまな経歴をもつ同期の学生からもとても刺激を受けました。
課題研究については、所属する予防医療学分野の先生方から丁寧な指導をいただきました。自分のもやもやしたリサーチクエスチョンは少しずつ明確になっていき、最終的に研究プロトコールを完成させることができました。4月からは臨床現場に戻りますが、研究はやっとスタート地点です。臨床研究もできる産婦人科医を目指して、これから頑張っていきたいと思います。

何歳になっても学びたいという意志があれば学び続けることができる

田中 美希
知的財産経営学分野

私は大学の基礎研究成果を実臨床へ活用させるための知的財産マネジメントを学びたいと思い、研修歯科医修了後にSPHへ入学しました。SPHでは医療従事者や企業経験者、文系学部卒業生など多様なバックグラウンドの同級生と共に学び、大変刺激的な毎日を過ごすことができました。30代以上の同級生も多く、仕事を続けながらも積極的に講義や研究に取り組む彼らの姿には、何歳になっても学びたいという意志があれば学び続けることができるのだと強い感銘を受けました。また所属していた知的財産経営学分野では実務経験豊富な先生方に指導していただき、SPH入学時より希望していた研究を行うことができました。専門職学位課程の2年間は短く、学び切れない部分も数多くあります。ですが修了後も、このSPHで培ってきた学びへの積極的な姿勢を忘れずに業務へ活かしていきたいと思っています。医療にまつわる様々な疑問を持つ方、そしてその疑問を解明するために学びたいと思う方、年齢や専門分野など気にせずにぜひ京大SPHで一緒に学びましょう。

今後の人生にとって大きな財産

写真

安田 咲こ
社会疫学

吉備国際大学看護学科卒。国立病院看護師、公立小学校養護教諭(保健室の先生)としての社会人経験を経て、効果的な保健教育方法について研究するため、2011年同学入学。

なぜ当大学院を選んだのか?

ボランティアとして関わっていた民間のHIV感染予防教育や学校保健として実施していた健康教育のあり方に疑問を感じ、より専門的な知識を身につけるために大学院へ進学することにしました。本学は日本初の公衆衛生専門大学院としての歴史を有するだけでなく、多くの著名な教授から直接講義を受けられることも魅力でしたが、私が師事したい教授がおられたことが決め手でした。

実際に入学してみてどうだったか?

専門職大学院ということもあり社会人経験のある学生が多く、各々の学生が明確な目的意識を持って学んでいました。授業や課題は大変でしたが、国内外から集まるモチベーションの高い学生と共に過ごすことで学習に対する意識も大幅に変わり、教科書以上の学びがありました。バックグラウンド・年齢・性別・国籍・宗教・目的の異なる様々な学生と2年間を共有できたことは、今後の人生にとって大きな財産であると感じています。

私のオススメ科目

■社会疫学
社会疫学の概念から方法論まで様々なことを学びました。質的調査のためのインタビュー練習や、量的調査のためのアンケート作成など実践的な演習もあり、研究実施時にとても役立ちました。

■統計学
講義ではデータの見方など基礎的なことを学び、演習ではデータ解析方などの応用も学びました。数字の意味について学んだことで視野が広がり、学ぶ楽しさを実感出来ました。

■課題研究
研究は本当に大変でしたが、実際にフィールド調査をすることで、1年次に授業で学んだことの理解が深まりましたし、研究の楽しさも実感しました。

なぜ当大学院を選んだのか?

専門職大学院ということもあり社会人経験のある学生が多く、各々の学生が明確な目的意識を持って学んでいました。授業や課題は大変でしたが、国内外から集まるモチベーションの高い学生と共に過ごすことで学習に対する意識も大幅に変わり、教科書以上の学びがありました。バックグラウンド・年齢・性別・国籍・宗教・目的の異なる様々な学生と2年間を共有できたことは、今後の人生にとって大きな財産であると感じています。

お金のやりくり法

学費は全額免除して頂いていましたが、生活費等のために日本学生支援機構からの貸与型奨学金と、民間企業からの給付型奨学金を受給していました。仕事やアルバイトをしながら大学院に通っている学生もいました。

ある一日のスケジュール

7:00~8:30 通学:大阪から毎日満員電車で大学院に通っていました。
8:45~12:00 授業:大学院の授業だけでなく、体育や語学など自分が興味のある学部の授業も聴講していました。1年次は毎日朝から夕方まで授業を受講していました。
13:00~18:00 授業:1年次で大学院の必要単位をほとんど取り終わったため、2年次はあまり大学院に行かず研究のための調査等をしていました。
18:00~23:00 1年次は翌日の予習・授業の課題・テスト勉強などをしていました。
23:30~1:00 終電で帰る日も多く、自宅に着くのは真夜中でした。

多様な人とのディスカッションを通して、物事を深く広く考えることができます。

写真

鳥嶋 雅子
医療倫理学

専門職学位課程(遺伝カウンセラーコース)を修了した後、研究を継続したいという思いから、医療倫理学分野の博士課程に進学しました。
専門職学位課程には、医療系だけでなく非医療系の人もおり、年齢層も幅広く、多様なバックグラウンドや価値観を持った人がいます。このような仲間や先生方とのディスカッションを通して、一つの物事を多角的に考え、深めていくことができたように思います。
社会健康医学系専攻博士課程の大学院教育コースミーティングでは、月1回のミーティングと、年1回の合宿を行っています。合宿では、博士課程の院生が各自の研究について発表し、先生方や院生とディスカッションを行います。自分の研究室以外の先生方や院生からの意見をもらい、自身の研究について視野を広げる大切な機会となっています。また、合宿という形式であるため、夜通し熱いディスカッションができるというのも大きな魅力です。
私は、遺伝カウンセリング学を専門にしていますが、このような多様な人とのディスカッションを通して、幅広い考えや価値観を知るということは、研究だけでなく実践をしていく上でもとても貴重な体験だった感じています。