京都大学 大学院医学研究科 社会健康医学系専攻

活動報告:三重県名張市へのフィールド・ビジット(ヘルシー・エイジングの模範的活動の視察)

一般 2023年04月18日

2023年3月28日、京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻(京大SPH)の教員2名と学生10名が、WHO西太平洋地域事務所(WHO/WPRO)の職員2名、ブルネイとカンボジアの研究者とともに、三重県名張市を訪問しました。今回のフィールド・ビジットの目的は、名張市がヘルシー・エイジングに関わる様々な模範的な活動を行っている現場を視察することでした。名張市は2003年に名張市総合計画「福祉の理想郷プラン」を公表し、「老いも若きも、男性も女性も、障害や難病の有る無しにかかわらず、全ての市民の社会参加がかなう互助共生のまち」を目標に掲げています。

午前中は、名張市役所を訪問し、名張市の北川市長、中村副市長から歓迎の挨拶を受けました。 その後、名張市の職員の方々から、名張市で行われているヘルシー・エイジングに関する様々な取り組みについて説明を受けました。

名張市では、すべての地区に「まちの保健室」というスペースを作っています。名張市民はいつでも「まちの保健室」を訪れ、リラックスした雰囲気の中で、保健師に悩みや日頃の悩みを相談することができます。この名称は、学校の保健室にちなんで名付けられました。日本のどの学校にも保健室があるので、日本人は誰もがこのシステムに慣れ親しんでいます。あらゆる年齢の市民が 「まちの保健室」を訪れ、困ったときに助けを求めることができます。

また、名張市ならではの興味深い活動として、「ステイホームダイアリー」が紹介されました。この活動は、希望者の中から名張市の市民3人が無作為に割り当てられ、それぞれが自分のことを書いたノートを交換する交換日記プログラムです。日々の思いを日記に綴り、各メンバーは、日記を「まちの保健室」に持参します。この活動により、市民の孤立を防いだり、心身の健康に課題のある人を見つけ出すことにも役立ちます。

また、三重県での社会的処方(Social Prescribing)のリンクワーカー養成プログラムについても説明を受けました。リンクワーカーは、市民とコミュニティのさまざまなリソースをつなぐスペシャリストです。これらの人材を教育するためのオンライントレーニングプログラムが、三重県では実施されています。このオンライン研修プログラムには、京大SPHの近藤尚己教授が講師の一人として参画しています。2022年、名張市は三重県で対人支援に従事する方を対象にこのオンライン研修を実施し、約100名がこの研修会に参加しました。

午後は、名張地区まちづくり推進協議会および、住民主体の地域支え合い活動(有償ボランティア)「隠おたがいさん」を訪問しました。名張地区まちづくり推進協議会では、名張市民がさまざまな委員会を自主的に結成し、地域の人々の状況を改善するためのアイデアを考え出しています。 委員が話し合い、連携・協議の方法を検討し、地域まつりの開催、障がい者支援事業の実施、子育てママの子育て支援活動、こども食堂などの取り組みが行われています。これらのしくみづくりについて、お話をお伺いしました。

「隠おたがいさん」では、家具の移動、庭木の剪定、家の掃除の手伝い、簡単な大工仕事など、さまざまなお手伝いをする有償ボランティアをコーディネートしています。このしくみは、ボランティアが活動を行うことに対して対価が支払われる制度として、持続可能なプログラムとして高く評価されています。

最後に、アートと健康を融合させたユニークな取り組みを行っている名張市のはしもと総合診療クリニックを訪ねました。診療所の待合室や診察室の壁や天井には、患者さんが安らぎを感じられるような風景やデザインがカラフルに描かれています。この活動を始めるきっかけや概要などについて、ご説明を受けました。

全体として、京大SPHの教員と学生は、このフィールド・ビジットから多くのことを学びました。今回の視察は、日本や世界各国でのヘルシー・エイジングに関連する市民と行政のコラボレーションと、研究を強化するための継続的な取り組みを、さらに促進させるきっかけとなりました。

以下は、今回のフィールド・ビジットに参加した学生の感想です。
 
我非常感谢能够有此次机会访问名张市。此次访问我学习到了如何通过多方的协作去构建一个不仅仅对老年人友好,甚至让社区里每一个人都能受惠的社区,并且深切感受到了居民为社区付出的努力。比如在社区里开展的一系列志愿活动推进跨世代之间的互动,让我觉得每一个人都能够受到帮助。(中国からの留学生)
(日本語訳:
この度は名張を訪問する機会を頂き、誠にありがとうございました。今回の訪問では、お年寄りに優しい活動だけでなく、地域の皆様にとっても、様々な関係者の協力を得て、地域の皆様に恩恵をもたらす地域づくりのあり方を学び、住民の地域への取り組みについて、深く感じる機会を得ました。 また、コミュニティでのボランティア活動が世代間の交流をどのように促進するかを見て、コミュニティの包括的なサポートがすべての居住者にどのように役立つかを学びました。)
 
Overall, the visit to Nabari City was informative and enlightening. The international medical school students gained a deeper understanding of the city’s efforts to promote healthy longevity and an aging society, as well as the challenges faced by the local community. The visit provided valuable insights into the role of government, nonprofit organizations, and medical facilities in promoting healthy aging and the importance of community engagement in achieving this goal. The Hashimoto General Clinic’s use of art in their professional settings was particularly inspiring and demonstrated the potential of creative solutions in improving patients’ overall health and wellbeing. (イランからの留学生)
(日本語訳:
全体として、名張市への訪問は有益で気づきが多くありました。学生たちは、ヘルシー・エイジングや高齢化社会に向けた名張市の取り組みや地域社会の課題について理解を深めました。この訪問は、ヘルシー・エイジングを支援する活動を促進する上での政府、非営利団体、および医療施設の役割と、この目標を達成するための地域社会の関与の重要性について貴重な洞察を提供しました。橋本総合クリニックでの芸術の使用は特に刺激的であり、患者の全体的な健康と幸福を改善するための創造的な解決策の可能性を感じました。)
 
有償ボランティアである「なばりおたがいさん」の活動が特に印象的だった。高齢者の方々が自らの役割をこなし、お互いを支えあいながら生活している。地域の人々が高齢者になっても、持続可能な取り組みとして続いていくことが期待できる。これは介護保険でカバーできない内容を必要とする人や独居や高齢者世帯の方々にとって必要なサービスであり、全国に広がるべき活動だと感じた。(日本人学生)
 
Nabari shahriga sayohat chog‘ida men Yapon xalqi qanchalik buyuk ekanligini yana bir bor anglab yetdim. Albatta, biz sog’lom qarishning bir qancha jihatlari bilan tanishdik, lekin men hatto keksa ko’ngillilar ham jamiyatda bir-birlarini qo’llab-quvvatlash tizimida juda aktiv qatnashishidan hayratda qoldim. Shu jumladan, maxsus Salomatlik xonalari Nabari shahri sog’liqni saqlash tizimida o’ta muhim ahamiyatga ega ekanligiga guvoh boldim va biz ham buni o’rganishimiz va o’z shahrimizda tadbiq etishimiz kerak ekanligini angladim. Shunday qilib, men Nabariy sayohatidan katta zavq oldim va ko’p narsalarni o’rgandim. (ウズベキスタンからの留学生)
(日本語訳:
名張市への視察で、改めて日本という国が、いかに素晴らしいかを実感しました。もちろん、ヘルシー・エイジングのいくつかの側面については私たちもよく知っていましたが、高齢者ボランティアでも地域内で互いに支え合う自発的なシステムには本当に驚きました。そして、「まちの保健室」の取り組みは、名張市の保健システムに大きな影響を与えるもののひとつであることがわかりました。名張では、多くのことを学び、楽しみました。 参加の機会をいただき、重ねてお礼申し上げます。)
 
ผมขอแสดงความยินดีกับเมืองนาบาริที่สามารถสร้างเมืองแห่งสุขภาวะ ความสำเร็จที่เกิดนี้เกิดจากพลังความเข้มแข็งของชุมชนที่อยากจะพัฒนาคุณภาพชีวิตของชาวเมืองให้ดี และการวาดภาพฝันของเมืองนั้นไม่ได้เกิดขึ้นเพียงเฉพาะคนในชุมชนและหน่วยงานด้านสาธารณสุขในพื้นที่ แต่การมีภาคเครือข่ายจากหลายภาคส่วนรวมไปถึงสถาบันการศึกษาจนการจัดการสุขภาพชุมชนอย่างยั่งยืน อีกทั้งการสร้างเสริมสุขภาพไม่จำเป็นต้องเฉพาะการออกกำลังกายหรือให้สุขศึกษา แต่รวมไปการสร้างสิ่งแวดล้อมที่เอื้อต่อสุขภาพที่ดี การมีกิจกรรมร่วมกันระหว่างวัย หรือกิจกรรมจิตอาสา
(タイからの留学生)
(日本語訳:
名張市が健康的な街をつくることができていることを心からお祝いしたいと思います。成功の鍵はコミュニティの力です。まちの未来像は、地域住民や医療関係者だけでなく、研究者の支援も含めて多方面が協力してつくられました。この協働の相乗効果は、持続可能な地域の健康管理につながります。また、健康増進活動が運動や健康教育だけにとどまらないことも示されました。しかし、健全なコミュニティ環境の構築、世代間活動、またはボランティア活動も実施する必要があります。)
 
今回名張を訪れ、助け合う社会の温もりを感じ、”地域”の持つ可能性の広さを学びました。都市部にいると電子的な手段に頼りがちですが、時代をあえて遡り、みんなが生まれ育った町・文化に基づく方法を取った方が深い繋がりが生まれかもしれないと思いました。今後も機会があれば地域を訪れ対話を行い、より良い社会づくりに携わりたいと思います。(日本人学生)
 
社会的処方を含めた地域共生社会の取組を伺い、良い意味で“支援”らしくない、“緩く優しい繋がり”が張り巡らされているように感じました。取組からエッセンスを抽出して、他地域で取組を進める際の参考・ヒントとなるのではないかなと感じました。ご説明、ご案内くださった名張市の皆様に、心より感謝いたします。ありがとうございました。(日本人学生)
 
Community interventions are not new to me as I myself have been part of such initiatives in my home country (Philippines) both as an organizer and implementer. However, I still have a lot to learn in terms of how such programs are designed and implemented at a larger scale and from the perspective of health policy makers. In particular, I have always been curious about sustainability, which is what struck me the most after the visit. It was extremely inspiring to see how volunteerism and a genuine desire to contribute to society drove forward and brought about favorable outcomes in Nabari city. I have always assumed that monetary compensation and employment are the main keys to sustainability of such interventions, but through this trip, I realized how limited that perspective was. After the visit, I am left with a number of questions: I want to understand what sort of things lead to this kind of attitude towards community health interventions and foster this kind of behavior in other settings. What enables these mechanisms and which barriers need to be addressed? How do we ensure that older adults, regardless of their social status, are able to benefit from these initiatives? Hopefully, I will be able to answer these as I pursue my studies.(フィリピンからの留学生)
(日本語訳:
私自身、母国(フィリピン)で主催者および実施者としてそのようなイニシアチブに参加してきたため、コミュニティへの介入は私にとって新しいことではありません。 しかし、そのようなプログラムがどのように設計され、より大規模に実施されるか、および健康政策立案者の観点から、私はまだ学ぶべきことがたくさんあります。特にサステナビリティについては以前から興味があり、今回の訪問で最も印象に残ったことです。ボランティア精神と社会に貢献したいという純粋な気持ちが名張市で前進し、良い結果をもたらした様子は非常に刺激的でした。私はこれまで、金銭的補償と雇用がそのような介入の持続可能性の主要な鍵であると考えてきましたが、今回の視察を通じて、その視点がいかに限定的であるかを実感しました。訪問後、いくつかの疑問があります。どのようなことが地域の健康介入に対するこの種の態度につながるのかを理解し、他の環境でこの種の行動を横展開したい場合、何がこれらのメカニズムを可能にし、どの障壁に対処する必要があるかという点です。社会的地位に関係なく、高齢者がこれらのイニシアチブから利益を得られるようにするにはどうすればよいでしょうか?うまくいけば、私は自分の研究を進めるにつれて、これらに答えることができるでしょう。)