京都大学 大学院医学研究科 社会健康医学系専攻

社会疫学

社会疫学とは、疫学に社会科学的視点と方法論を統合した
学術的アプローチとして、2000年に私たちが創始した
京都大学発の新しい公衆衛生の方法論です。

  • 教授: 木原 正博
  • 教授: 木原 正博
  • Masahiro Kihara,
    M.D., Ph.D.Professor

概要

  • 国際保健学講座 社会疫学分野
  • 教授: 木原 正博
  • 准教授 : 木原 雅子(国連合同エイズ計画共同センター、センター長)
  • TEL:075-753-4350
  • FAX:075-753-4350
  • e-mail:
  • URL:

社会疫学とは

社会疫学(socio-epidemiology)とは、2000年に私たちが創始した「京都大学発」の新しい公衆衛生の方法論です。社会疫学は、社会科学と疫学の視点と方法論を統合するアプローチであり、疫学、統計学、ミクストメソッド(質的方法と量的方法を組み合わせて用いる方法)、ソーシャルマーケティング、行動科学、コミュニケーション科学、社会的実験法、そして様々な社会学的、哲学的視点が統合的に用いられます。こうした方法論的立場に基づくとともに、京都大学の伝統である「フィールド重視」の精神に則り、所謂arm-chair epidemiology(研究室疫学)の対極として、フィールドでの徹底した人間的交流、質的・量的現実把握、ホリスティックな人間理解を重視し、そこから社会文化的に適しかつ科学的な問題解決法を探求することを強く志向しています。
研究は、HIV/AIDSを中心とテーマとしており、社会疫学アプローチに基づいて、これまでに、HIV/AIDSや性感染症(STD)に関する多くの行動学的、予防学的研究を、日本のみならず、多くの途上国で実施してきました。そして、これらの研究・活動実績が評価されて、私たちの研究室は、2006年10月に、世界で最初の国連合同エイズ計画(UNAIDS)の共同センター(UNAIDS Collaborating Centre on Socio-epidemiological HIV research)に指定されました。教育では、社会疫学の基礎理論から応用に至る体系的教育を実施しており、教室には、イラン、中国、ザンビア、ミャンマー、バングラデシュ、ネパール、ペルー、コンゴ民主共和国、タイ、スワジランド、イエメンなど多くの国々からの留学生が学んでいます。そのため、教育指導やメンタリング、会議の多くは英語で行われています。

社会研究・教育について

研究について

主な研究プロジェクトは、WYSHプロジェクトとHADIプロジェクトです。WYSHとは、Well-being of Youth in Social Happinessの略で、日本の若者におけるHIV/STD予防を構造的に追及する、我が国で唯一の複合予防(combination prevention)プロジェクトであり、HADIは、HIV/AIDS Prevention Studies among Drug Users in Iranの略で、現在イランで、最も高いHIV感染リスクに曝されている薬物使用者の予防促進を目指すプロジェクトです。
WYSHプロジェクトは、木原雅子准教授によって、膨大な量的調査と質的調査の結果に基づいて、2003年に創始された国産のHIV/STD予防プロジェクトです。WYSHプロジェクトは、学校教育、地域啓発、インターネット啓発を含む総合的なプロジェクトですが、その核心である学校教育モデルは、知識、態度、行動を変容させる高い効果があることが繰り返し実証されており、2004年には厚生労働省、2007年には文部科学省の公的な支援を獲得するに至り、若者のHIV/STD予防に関する我が国最大のプロジェクトとして、毎年京都で数百人規模の全国研修会が開催されています。
一方、HADIプロジェクトは、2003年から開始された研究プロジェクトで、イランの薬物使用者のHIV感染実態とその主たるリスク要因(刑務所内での注射の回し内)を初めて明らかにするとともに、イラン保健省や国連機関との共同研究によって、地域における注射針交換プログラムや刑務所内でのメサドン維持療法の予防効果を立証することにより、国際的に高い評価を得るとともに、イランにおけるHIV対策の形成に大きな影響を与えてきました。
これら以外に、HIV/STDに関連する行動学的研究を、日本はもとより、モーリシャス、タイ、中国、バングラデシュ、ネパール、ブルキナファソなどで行ってきました。また、当分野は、約20年にわたって、わが国における、若者、滞日外国人、男性同性愛者、性感染症患者、薬物使用者を始めとする様々な集団を対象とした行動疫学と予防介入研究を、開拓・牽引してきた歴史を有しており、現在、厚生労働科学研究の、「HIV感染症の流行動向と関連情報の統合的分析に関する研究(略称)」(主任研究者:木原正博)と「若者のHIV予防に関する社会疫学的研究(略称)」(主任研究者:木原雅子)を主宰しています。

教育について

教育では、社会疫学的研究者(socio-epidemiologist)の養成を目的として、まず前期(社会疫学I)では、主に社会疫学の理論的側面を講義し、ミクストメソッド、ソーシャルマーケティング、行動理論、社会実験法、確率的・非確率的サンプリング法などの方法が、社会文化的に適切で、効果のある問題解決法の創出にどのように体系的に用いられるかを解説します。後期(社会疫学II)では、ミクストメソッドの演習が中心となり、質的方法については、フォーカスグループインタビューや質的データ分析について、実技による徹底した指導を行うとともに、量的方法については、質問票開発の理論とともに、優れた質問票を開発するための徹底した演習指導を行います。
これ以外に、当分野は、感染症疫学の講義を担当しており、感染症の文明論、新興・再興感染症、数学モデル、実地疫学(field epidemiology)について講義を行っています。また、教室のプロジェクトとして、海外で発行された疫学・統計・質的方法に関する優れた教科書の翻訳出版を続けており、わが国の公衆衛生学教育と研究の水準向上に貢献しています。

国連合同エイズ計画共同センターについて

当分野は、2006年に、木原雅子准教授をセンター長とする、「社会疫学的HIV研究に関する国連合同エイズ計画共同センター(UNAIDS Collaborating Centre on Socio-epidemiological HIV research)」に指定され、研究、研修、情報発信、ネットワーキングを柱として活発な活動を行っています。同センター情報の室では、様々な資料を収集し、一般公開しています。

研究業績

2008年~

  1. Zamani S, Farnia M, Torknejad A, Alaei BA, Gholizadeh M, Kasraee F, Ono-Kihara M, Oba K, Kihara M. Patterns of drug use and HIV-related risk behaviors among incarcerated people in a prison in Iran. J. Urban Health, 2010 (in press)
  2. Ono-Kihara M, Sato T, Kato H, Suguimoto-Watanabe SP, Zamani S, Kihara M. Demographic and behavioral characteristics of non-sex worker females attending sexually transmitted disease clinics in Japan: a nationwide case-control study. BMC Public Health. (2010) in press
  3. Zamani S, Farnia M, Tavakoli S, Gholizadeh M, Nazari M, Seddighi AA, Setayesh H, Afshar P, Kihara M. A qualitative inquiry into methadone maintenance treatment for opioid-dependent prisoners in Tehran, Iran. Int J Drug Policy. (2009) Apr 21. [Epub ahead of print]
  4. Kobori E, Visrutaratna S, Maeda Y, Wongchai S, Kada A, Ono-Kihara M, Hayami Y, Kihara M. Methamphetamine use and correlates in two villages of the highland ethnic Karen minority in northern Thailand: a cross sectional study. BMC Int Health Hum Rights. (2009) May 15;9:11.PMID: 19445678
  5. Ma Q, Ono-Kihara M, Cong L, Xu G, Pan X, Zamani S, Ravari SM, Zhang D, Homma T, Kihara M. Early initiation of sexual activity: a risk factor for sexually transmitted diseases, HIV infection, and unwanted pregnancy among university students in China. BMC Public Health. (2009) Apr 22;9:111.PMID: 19383171
  6. Hoque HE, Ono-Kihara M, Zamani S, Ravari SM, Kihara M. HIV-related risk behaviours and the correlates among rickshaw pullers of Kamrangirchar, Dhaka, Bangladesh: a cross-sectional study using probability sampling. BMC Public Health. (2009) Mar 11;9:80.PMID: 19284569
  7. Ma Q, Ono-Kihara M, Cong L, Pan X, Xu G, Zamani S, Ravari SM, Kihara M. Behavioral and psychosocial predictors of condom use among university students in Eastern China. AIDS Care (2009) Feb;21(2):249-59.
  8. Homma T, Ono-Kihara M, Zamani S, Nishimura YH, Kobori E, Hidaka Y, Ravari SM, Kihara M. Demographic and behavioral characteristics of male sexually transmitted disease patients in Japan: A nationwide case-control study. Sex Transm Dis (2008) Oct 2. [Epub ahead of print]
  9. Cong L, Ono-Kihara M, Xu G, Ma Q, Pan X, Zhang D, Kihara M. The characterisation of sexual behaviour in Chinese male university students who have sex with other men: a cross-sectional study. BMC Public Health (2008) Jul 22;8:250.
  10. Zamani S, Vazirian M, Nassirimanesh B, Razzaghi EM, Ono-Kihara M, Ravari SM, Gouya MM, Kihara M. Needle and syringe sharing practice among injecting drug users in Tehran: A comparison of two neighbourhoods, one with and one without a needle and syringe program. AIDS Behav (2008) doi 10.1007/s10461-008-9404-2,
  11. Ma Q, Ono-Kihara M, Cong L, Xu G, Pan X, Zamani S, Ravari SM, Kihara M. Unintended pregnancy and its risk factors among university students in eastern China. Contraception (2008) 77: 108-13.
  1. 疫学-医学的研究と実践のサイエンス 第4版(木原正博、木原雅子訳、MEDSi、2010年
  2. 医学的研究のデザイン-研究の質を高める疫学的アプローチ 第3版(木原雅子・木原正博訳、MEDSi、2009年)
  3. 医学的研究の多変量解析(仮題)(木原正博・木原雅子監訳、MEDSi、2007年)
  4. 国際誌にアクセプトされる医学論文(木原正博・木原雅子訳、MEDSi、2000年)
  5. WHOの標準疫学 第2版(木原雅子・木原正博訳、三煌社、2008年)
  6. ヘルスリサーチのための質的研究方法-その理論と方法(木原雅子・木原正博監訳、三煌社、2006年)
  7. 10代の性行動と日本社会-そしてWYSH教育の視点(木原雅子、ミネルヴァ書房、2006年)

授業風景
【左】国連合同エイズ計画共同センター開所式(2006年、京都)と共同センターのプレート
【右】バングデシュの人力車夫のリスク行動に関する社会疫学的研究(2008年)

授業風景
【左】イランの薬物使用者のリスク行動や予防に関する社会疫学的研究(2003年~)
【右】WYSHプロジェクトの全国研修会(文部科学省主宰、2009年、京都大学)