京都大学 大学院医学研究科 社会健康医学系専攻

環境衛生学

「環境と遺伝子の調和」
ゆたかな環境と人類の健康を探求する研究領域です。

  • 教授: 渡邉 裕二
  • 准教授:原田 浩二
    Kouji Harada, PhD, MPH
    Associate Professor

概要

  • 健康要因学講座 環境衛生学分野
  • 准教授:原田 浩二
  • 特定助教:奥田 裕子
  • TEL:075-753-4490
  • FAX:075-753-4458
  • e-mail:
  • URL: http://hes.med.kyoto-u.ac.jp

健康障害の予防には、感受性素因と環境要因の相互作用から分析する視点が必要です。我々は、健康障害の発症における環境と個体要因の相互作用を明らかにすることを第一の目標としています。環境要因としては気象、放射線などの物理要因、残留性有機汚染物質など化学物質、栄養障害、労働環境要因などを対象とし、これらに起因する健康障害を解析しています。遺伝疫学の手法を用いる外、フィールド調査、モデル計算など多様な手法を用います。我々の第二の目標は、メカニズムの解明によって得られた知見を基に、環境の管理、改変、創薬により疾病予防の実践に結びつけることです。

研究・教育について

我々の生活を取り巻く社会には、ライフスタイル、栄養、環境汚染、職業など多くの環境が健康障害の原因となります。懸念のある環境汚染物質の曝露評価と生体への影響を検討しています。曝露が高い汚染物質について、各種コホート研究と共同して、リスクの評価を行っています。難分解性、高蓄積性である環境汚染化学物質として近年の課題である有機フッ素化合物の曝露の解明と生体影響を疫学、分子毒性学から解明を行ってきており、講義でも「中毒学」を重点的に行っています。物理要因として福島第一原子力発電所事故による放射線被ばく、また避難に伴う生活習慣病リスクについても調査を行っています。その他糖尿病をはじめとする生活習慣病に関わる疾患について基礎研究しています。遺伝素因の面から環境要因の影響を明らかにする研究として、小児四肢疼痛発作症について、気象環境と疼痛の関係に着目して研究しています。また若年で脳血管障害を起こすもやもや病について、遺伝子解析と予防医学の観点から精力的に行っています。本疾患は東アジアに多く、多様な血管疾患との関わりも研究しています。国内のみならずSri Lankaで多発する慢性腎臓病の原因究明と予防法について研究しています。
Ⅰ. 環境要因曝露によるヒト健康影響
1) 福島第一原子力発電所事故による影響調査
原発事故による福島県住民の放射線被ばくの調査や放射性物質の環境動態調査、避難、事故後の生活の変化による健康状態への影響調査を行っています。
福島第一原子力発電所に近接する地域において、個人線量計を用いた外部被ばく調査、呼吸、食事を介した内部被ばく調査を行い、発がんリスク評価を行っています。健康診査、生活習慣の調査から糖尿病の増加が危惧され、予防への取り組みを進めています。また学際融合教育研究推進センター福島復興支援研究連携推進ユニットに参画し、森林里山調査、動態シミュレーションなど学際的に取り組み、警戒区域再編後の住民の帰還を支援しています。

2) 化学環境リスク研究
現在私達は多くの環境汚染物質に曝露しています。特に残留性有機汚染物質は、安定であるがゆえに自然界で壊れにくく生物濃縮されます。これらの化学物質の時間的空間的曝露傾向を的確に把握し、リスクを評価し、また管理、予防する必要があります。
私達は、京都大学に生体試料(血液・母乳・食事など)を保存する環境試料バンクを創設しました。この試料を用いて種々の汚染物質の測定、曝露評価を行い(左記講義で詳細を述べます)、世界で初めての知見、日本で初めての知見を多く得ています。全国15地域およびアジア諸国に及ぶ衛生学の専門家との共同研究であり、毎年試料の収集が行われ、京都大学医学・生命科学総合研究棟(G棟)に設置されているサンプルルームで保存しています。
新たな化学分析技術の開発にも取り組み、新たな化学物質曝露の解明や低コスト・高感度・exposomic分析の実現を目指しています。国内外のコホート研究、症例対照研究との共同研究で多種類の化学環境要因曝露によるリスクの評価を行っています。

Ⅱ. 遺伝的感受性素因と環境相互作用の解明
1)小児四肢疼痛発作症
四肢の大関節の慢性疼痛はQOLを損なうものとして重要ですが、鎮痛には限界があり、疼痛メカニズムの本態の解明が必要です。私達は、気圧、気温変化をきっかけに四肢の大関節の痛みを定期的に繰り返す家族集積例を見出し、小児四肢疼痛発作症と名付けました。
遺伝子解析を通じてSCN11Aに変異を見出し、環境要因と慢性疼痛の新たなメカニズムの解明を行っております。新規の慢性疼痛の経路から、新規の分子標的を明らかにして、新たな医薬の創出を目指しています。

2)もやもや病の遺伝子解析と病態解明
もやもや病の多くは10歳以前に発症し、小児や若年者で脳梗塞を、成人で脳出血を好発します。いったん発症すれば日常生活に支障をきたすため、家族や親族の負担が非常に大きい疾患です。そのため遺伝子同定による予防方法の確立が急がれています。私達と共同研究グループで17番染色体に位置する感受性遺伝子Mysterin(RNF213)を同定しました。
現在その機能を疾患特異的iPS細胞の樹立と分化、遺伝子改変マウスの解析を通じて、新学術領域研究のなかで炎症反応との関連、各種血管疾患との関わりなどを検討しています。
このRNF213遺伝子にある東アジア人特有の変異R4810Kは一般集団の1~2%が保有し、冠動脈疾患、頭蓋内動脈狭窄症、血圧などと関連するなど、もやもや病にとどまらない役割が示されています。

 

研究業績

    1. Okazaki S, Morimoto T, Kamatani Y, Kamimura T, Kobayashi H, Harada K, Tomita T, Higashiyama A, Takahashi JC, Nakagawara J, Koga M, Toyoda K, Washida K, Saito S, Takahashi A, Hirata M, Matsuda K, Mochizuki H, Chong M, Pare G, O’Donnell M, Ago T, Hata J, Ninomiya T, Dichgans M, Debette S, Kubo M, Koizumi A, Ihara M. Moyamoya Disease Susceptibility Variant RNF213 p.R4810K Increases the Risk of Ischemic Stroke Attributable to Large-Artery Atherosclerosis. Circulation 2019;139:295-8.
    2. Shanika Nanayakkara, STMLD Senevirathna, Kouji H Harada, Rohana Chandrajith , Toshiaki Hitomi, Tilak Abeysekera, Eri Muso, Takao Watanabe, Akio Koizumi. Systematic evaluation of exposure to trace elements and minerals in patients with chronic kidney disease of uncertain etiology (CKDu) in Sri Lanka. J Trace Elem Med Biol. Aceepted Apr 28, 2019
    3. Kabata R, Okuda H, Noguchi A, Kondo D, Fujiwara M, Hata K, Kato Y, Ishikawa K, Tanaka M, Sekine Y, Hishikawa N, Mizukami T, Ito J, Akasaka M, Sakurai K, Yoshida T, Minoura H, Hayashi T, Inoshita K, Matsuyama M, Kinjo N, Cao Y, Inoue S, Kobayashi H, Harada KH, Youssefian S, Takahashi T, Koizumi A. Familial episodic limb pain in kindreds with novel Nav1.9 mutations. PLoS One 2018;13:e0208516.
    4. Ebner DK, Ohsawa M, Igari K, Harada KH, Koizumi A. Lifestyle-related diseases following the evacuation after the Fukushima Daiichi nuclear power plant accident: a retrospective study of Kawauchi Village with long-term follow-up. BMJ Open 2016;6:e011641.
    5. Shiwaku Y, Lee P, Thepaksorn P, Zheng B, Koizumi A, Harada KH. Spatial and temporal trends in perfluorooctanoic and perfluorohexanoic acid in well, surface, and tap water around a fluoropolymer plant in Osaka, Japan. Chemosphere 2016;164:603-10.
    6. Junxia Yan, Toshiaki Hitomi, Katsunobu Takenaka, Masayasu Kato, Hatasu Kobayashi, Hiroko Okuda, Kouji H. Harada,Akio Koizumi. Genetic Study of Intracranial Aneurysms. Stroke. 46(3): 620-626, 2015.
    7. Harada KH, Niisoe T, Imanaka M, Takahashi T, Amako K, Fujii Y, Kanameishi M, Ohse K, Nakai Y, Nishikawa N, Saito Y, Sakamoto H, Ueyama K, Hisaki K, Ohara E, Inoue T, Yamamoto K, Matsuoka Y, Ohata H, Toshima K, Okada A, Sato H, Kuwamori T, Tani H, Suzuki R, Kashikura M, Nezu M, Miyachi Y, Arai F, Kuwamori M, Harada S, Ohmori A, Ishikawa H and Koizumi A. Radiation dose rates now and in the future for residents neighboring restricted areas of Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant. Proc Natl Acad Sci USA. 111(10): E914-923, 2014.
    8. Fujii Y, Harada KH, Koizumi A. Analysis of perfluoroalkyl carboxylic acids in composite dietary samples by gas chromatography/mass spectrometry with electron capture negative ionization. Environ Sci Technol. 46(20): 11235-11242, 2012.
    9. Wanyang Liu, Daisuke Morito, Seiji Takashima, Yohei Mineharu, Hatasu Kobayashi, Toshiaki Hitomi, Hirokuni Hashikata, Norio Matsuura, Satoru Yamazaki, Atsushi Toyoda, Ken-ichiro Kikuta, Yasushi Takagi, Kouji H Harada, Asao Fujiyama, Roman Herzig, Boris Krischek, Liping Zou, Jeong Eun Kim, Masafumi Kitakaze, Susumu Miyamoto, Kazuhiro Nagata, Nobuo Hashimoto, Akio Koizumi. Identification of RNF213 as a Susceptibility for Moyamoya Disease and Its Possible Role in Vascular Development. PLoS ONE. 6(7): e22542, 2011
    10. Inoue K, Harada K, Takenaka K, Uehara S, Kono M, Shimizu T, Takasuga T, Senthilkumar K, Yamashita F. and Koizumi A. Levels and Concentration Ratios of Polychlorinated biphenyls and Polybrominated diphenyl ethers in Serum and Breast Milk in Japanese Mothers. Environ Health Perspect. 2006;114:1179-1185.

集合写真