京都大学 大学院医学研究科 社会健康医学系専攻

健康情報学

生・老・病・死に向き合う時、
人間を元気づけられる「情報」と
「コミュニケーション」とは何か―。

  • class_nakayama
  • 教 授/中山 健夫
  • Takeo Nakayama, M.D., Ph.D. Professor

概要

  • 健康管理学講座 健康情報学分野
  • 教 授 : 中山 健夫
  • 准教授 : 高橋 由光
  • TEL : 075-753-9477
  • FAX : 075-753-9478
  • e-mail:
  • URL: http://hi.med.kyoto-u.ac.jp/

情報(information)とは、「(意思決定において不確実さ(uncertainty)を減ずるもの 」(シャノン) と定義されています。本分野は、健康・医療に関する問題解決を支援する情報のあり方を追求し、情報を「つくる・つたえる・つかう」の視点で捉え、より望ましい環境の整備を推進する研究と実践に取り組むものです。その対象は、医療者だけではなく、患者・介護者・支援者などの医療消費者全般を含み、また個人から社会レベルの意思決定の支援を想定しています。従来の公衆衛生や臨床の枠組みにこだわらず、健康や医療に関わる情報を横断的に扱い、Evidence-based Healthcare(診療ガイドライン、システマティック・レビュー、決断分析などを含む)、情報リテラシー、e-ヘルス、ヘルス・コミュニケーション、個人情報保護やアカウンタビリティの情報倫理などの教育・研究を進めています。

研究・教育について

疫学 I

本コースは医学研究科社会健康医学系専攻の必須科目の一つです。人間の健康にかかわる様々な事象の因果関係を明らかにする疫学の基本的な考え方と具体的な活用例を学びます。

文献検索法・文献評価法

臨床研究を含む社会健康医学(パブリックヘルス)領域において、基本的なスキルの1つである文献検索の方法、文献の評価方法について講義を行います。 疫学・EBM(根拠に基づく医療)の知識をもとに、各種の健康・医療情報を検索し、適切に評価した上で利用する方法を学習します。PubMed、コクランライブラリー、医学中央雑誌など代表的な医学文献データベース、有用なWebサイト、本学で利用可能な情報リソースの基礎的事項を紹介し、その活用法の習得を目指します。

健康情報学I

健康・医療情報、データや知識の収集、蓄積、伝達、検索、評価法、情報リテラシー、ヘルス・コミュニケーション、個人情報保護などの情報倫理の課題を学びます。疫学やEBMを基本として、医学文献からマスメディア、インターネットによる健康情報まで、さまざまな情報の特徴を知り、それらを主体的、効果的に活用する方法を考えます。さらに欧米の医療関係者に関心の高い性格テスト・MBTI(Myers-Briggs Type Indicator)のワークショップを通して、個人の情報処理・認知の特性とコミュニケーションに関して体験的理解を深めます。

健康情報学II

インターネットの基礎知識およびeヘルスの概念を説明し、ヘルスケアにおけるICT(Information and communication technology)の活用事例および研究について講義を行います。ヘルスケアとICTに関する、各種ガイドライン・チェックリストを紹介し、批判的に吟味しつつ、適切に情報を利活用する方法を学習します。各種二次データ、統計調査(国民生活基礎調査)、レセプト情報・特定健診等情報データベース (NDB)などを例に、医療ビッグデータの現状および利活用について講義を行います。ライフコース疫学の基礎を紹介するとともに、個人番号制度(マイナンバー制度)が 医療・保健分野に与える可能性について考えていきます。

EBM・診療ガイドライン特論

臨床医療の基盤となりつつあるEBM(根拠に基づく診療)と、EBMを用いた診療ガイドラインの国内外の動向と展望を学びます。実習を通して、近年大きく進歩しつつある診療ガイドラインの評価・作成の方法の実際を経験します。患者・家族とのコミュニケーション、法的な意味合い、医療資源の配置など社会的な視点から診療ガイドラインの可能性と課題を考えます。

ヘルスサイエンス研究の進め方

医療・ヘルスサイエンス研究を進めるにあたって必要な、明確で正確なコミュニケーションの基本的知識を学びます。研究者として「知らなかった」ではすまされない研究と出版の倫理について学びます。研究成果公表にあたって分かりやすい、科学的・論理的な文章、図表、スライドやポスターの作成法を学びます。
*以上の社会健康医学系専攻の講義に加え、グローバル生存学(GSS)、政策のための科学(STiPS)などの大学院、医学部医学科、全学共通の学部教育の一部を担当しています。

研究活動

情報(エビデンス・ナラティブ)を「つくる」「つたえる」「つかう」の視点から様々な研究に取り組んでいます。

  • 「つくる」・・・疫学研究(ゲノム・アプローチを含む)、インフォームド・コンセントや個人情報保護などの情報倫理、学術情報評価、ヘルスサービス研究
  • 「つたえる」・・・システマティック・レビュー、診療ガイドライン、医療情報データベース構築、予測モデル・意思決定支援ツールの開発、ヘルス・コミュニケーション
  • 「つかう」・・・インターネットやマスメディアによる健康・医療情報リテラシー、shared decision making(共有意思決定)の研究

これらはいずれも社会的な要請・期待が近年高まりつつある領域であり、公的な研究として支援、推進されている課題も多くあります。本分野はこれらの課題に柔軟かつ積極的に取り組んでいきたいと考えています。
上記に加え、京都大学大学院医学研究科と滋賀県長浜市が連携して取り組んでいる『0次予防健康づくり推進事業』というゲノム・コホート研究、環境省「エコチル調査:子どもの健康と環境に関する全国調査」京都ユニットセンターと連携した妊婦・小児への黄砂の健康影響に関する疫学研究、進行がん患者に対するステロイド投与の倦怠感とQOLへの影響に関する多施設共同プラセボ対照二重盲検ランダム化試験(PAlliative medicine Steroid intervention Quality of life trial: PASQol)などに取り組んでいます。また健康情報学分野は臨床研究者養成コース(MCR)の参画分野の一つでもあります。

研究業績(抜粋)

  1. Ohtera S, et al. Proposal of quality indicators for cardiac rehabilitation after acute coronary syndrome in Japan: a modified Delphi method and practice test. BMJ Open. 2017 Jan 27;7(1):e013036.
  2. Dagvadorj A, et al. Hospitalization risk factors for children’s lower respiratory tract infection: A population-based, cross-sectional study in Mongolia. Sci Rep. 2016 Apr 19;6:24615.
  3. Kanatani KT,; Japan Environment & Children’s Study Group. Effect of desert dust exposure on allergic symptoms: A natural experiment in Japan. Ann Allergy Asthma Immunol. 2016 May;116(5):425-430.
  4. Takahashi Y, elai. Social network analysis of duplicative prescriptions: One-month analysis of medical facilities in Japan. Health Policy. 2016 Mar;120(3):334-41.
  5. Tominari S,; Unruptured Cerebral Aneurysm Study Japan Investigators. Prediction model for 3-year rupture risk of unruptured cerebral aneurysms in Japanese patients. Ann Neurol. 2015 Jun;77(6):1050-9.

主な書籍

  • 健康・医療の情報を読み解く:健康情報学への招待(第2版)(丸善出版)
  • ヘルスコミュニケーション実践ガイド(日本評論社)
  • 臨床研究と疫学研究のための国際ルール集(ライフサイエンス出版)
  • 臨床研究と疫学研究のための国際ルール集 Part 2(ライフサイエンス出版)
  • トムラングの医学論文「執筆・出版・発表」実践ガイド(シナジー)
  • 栄養科学シリーズNEXTシリーズ公衆衛生学第3版(講談社サイエンティフック)
  • 公衆栄養の科学(理工図書)
  • 京大医学部の最先端授業:「合理的思考」の教科書(すばる舎)
  • 最悪に備えよ―医薬品および他の医療関連危機を予測し回避または管理する(じほう)
  • 健康情報コモンズ(ディジタルアーカイブズ)
  • 医療ビッグデータがもたらす社会変革(日経BP)

研究活動・その他

研究費(抜粋)

-日本学術振興会科学研究費-

  • 挑戦的萌芽研究. ビッグデータを活用した多疾患罹患の社会的決定要因の検討:ネットワーク分析とGIS. 2016-18年度(研究代表者:高橋由光)
  • 挑戦的萌芽研究. 疫学研究への展開と患者支援を目指す新たな生涯電子カルテ(EHR)システムの構築. 2014-16年度(研究代表者:中山健夫)
  • 基盤研究C. 過度の紫外線対策とアレルギー. 2013-15年度(研究代表者:金谷久美子)
  • 基盤研究B. 緩和ケアの新たな展望へ向けた研究:診療ガイドラインと患者の価値観・QOLの課題. 2012-15年度(研究代表者:宮崎貴久子)
  • 挑戦的萌芽研究. 患者の重複受診行動の要因解明:保険者レセプトデータを用いたネットワーク分析. 2013-15年度(研究代表者:高橋由光)
  • 挑戦的萌芽研究. 健診要医療判定・医療未受診者の特性:健診・レセプト突合による疫学研究と質的研究. 2012-13年度(研究代表者:中山健夫)
  • 挑戦的萌芽研究. がん・緩和ケア研究推進の基盤整備に向けた研究. 2011-13年度(研究代表者:宮崎貴久子)
  • 挑戦的萌芽研究. 診療ガイドライン・添付文書の遵守状況と関連要因 :レセプトデータベースの構築と活用. 2010-11年度(研究代表者:中山健夫)

-厚生労働科学研究費-

  • 政策科学総合研究事業(臨床研究等ICT基盤構築研究事業). 高齢者医療の適正化推進に向けたエビデンス診療ギャップの解明‐既存データベースを利用した、京都大学オンサイトセンターにおけるレセプト情報等データベース(NDB)の活用方策の検討. 2015-16年度(研究代表者:中山健夫)
  • 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業. 系統的レビューとコホート研究に基づく特定健診質問票の開発. 2015-16年度(研究代表者:中山健夫)
  • 地域医療基盤開発推進研究事業. 今後のEBM普及促進に向けた診療ガイドラインの役割と可能性に関する研究. 2010-11年度(研究代表者:中山健夫)
  • 第3次対がん総合戦略研究事業. 国民のがん情報不足感の解消に向けた「患者視点情報」のデータベース構築とその活用・影響に関する研究. 2010-13年度(研究代表者:中山健夫)

-厚生労働行政推進調査事業費-

  • 政策科学総合研究事業(政策科学推進研究事業). 医療費適正化に向けた生活保護受給者の医薬品処方および生活習慣病の実態調査:大規模レセプト分析. 2017-18年度(研究代表者:高橋由光)
  • 地域医療基盤開発推進研究事業. 診療ガイドラインの担う新たな役割とその展望に関する研究. 2016-17年度(研究代表者:中山健夫)
  • 厚生労働科学特別研究事業. 医療費適正化に向けた生活保護受給者の生活習慣病罹患および医薬品処方の実態調査:医療扶助レセプト分析. 2016年度(研究代表者:高橋由光)

―環境省環境研究総合推進費―

  • 環境問題対応型研究領域. 黄砂の乳幼児への短期影響~燃焼性大気汚染物質による影響修飾~. 2015-17年度(研究代表者:中山健夫)
  • 環境問題対応型研究領域. 戸外活動時間を考慮に入れた、土壌性ダスト(黄砂)による呼吸器/アレルギー疾患リスクの定量的評価. 2011-13年度(研究代表者:中山健夫)

-科学技術開発センター RISTEX-

  • 科学技術イノベーション政策のための科学研究開発プログラム(プロジェクト企画調査). 医療健康情報の一元化と社会実装に向けた基盤研究. 2013年度(研究代表者:中山健夫)

診療・公衆衛生ガイドラインの作成・評価・普及への貢献

関節リウマチ(厚生労働科学研究)、急性中耳炎(日本耳科学会)、慢性副鼻くう炎(日本鼻科学会)、嚥下障害(日本耳鼻咽喉科学会)、褥瘡(日本褥瘡学会)、がん検診(厚生労働科学研究)、腰椎椎間板ヘルニア(日本整形外科学会、評価プロジェクト)、日本神経学会(診療ガイドライン統括委員)、日本消化器病学会(診療ガイドライン統括委員)周産期ドメスティックバイオレンス(聖路加看護大COE、外部評価)、高尿酸血症状(痛風・核酸代謝学会)、日本緩和医療学会、日本小児アレルギー学会、他。

授業風景